二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第四章 Witch−第01話
「調子はどう?」
リハビリルームに顔を出した達郎が開口一番に聞いてくる。
「うーん。なんか遠隔操作してるみたいな感覚? うまく表現できないけどやっぱり以前とは違うなぁ」
「動くだけいいじゃん」
「いや、まぁ。そうなんだけどな」
修平は困ったように頭をかく。
正論ではあったが、それ以外でも修平は達郎に頭が上がらない状態であった。
あの夜、小指を切断した修平と、ドラッグに手を出していた亜矢が警察に通報されずにすんだのは、達郎が父親である院長に頼みこんでくれたおかげだった。
達郎曰く、修平達の為ではなく、父親の自分への罪悪感を薄める為にやっただけとの事だが。
「あ、こんなろころにいた」
美月が修平達を見つけリハビリルームに入ってきた。
その首には十字架のペンダントがかかっていた。
結局、亜矢の流産は避けられなかった。
そのまま美月達のいるこの病院に入院する事になった。
修平が亜矢の両親に連絡をとると、二人はすぐに病院にかけつけた。
何があった? そんな事を聞く事なく、二人ともただ亜矢を抱きしめていた。
元々ウィッチそのものには肉体的な依存性はないため、身体の回復は早かった。
ただ、何故か亜矢は修平との面会だけは拒み続けた。
亜矢の髪を母親が手で梳いていると病室の戸がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
祐介だった。
「あの、どちら様ですか?」
「お嬢さんの知り合いです。あ、これご家族で食べて下さい」
祐介は平たい包みを渡す。
「祐介さーん。なにそれー」
「プチケーキの詰め合わせだ。お前好きだったろ」
「わーい。ついでに祐介さんの家のボトル持ってきて欲しかったなー」
「……お前、自分が未成年だって事、完全に忘れてるだろ」
呆れて嘆息するが、すぐに安心したような表情になった
「元気そうで安心したよ」
「うん、私は元気だよ」
「みたいだな、でもだったらなんであいつに会ってやらない」
瞬間、亜矢の表情が凍りついた。
「お前の為にあいつは――」
「やめてっ!」
耳を塞ぎ目を瞑って叫んだ。
祐介は亜矢が落ち着くのを待ってから
「だったら、なぜそれをまたかけているんだ?」
それとは亜矢の首にかかったペンダントだ。
月に妖精が腰掛けた意匠。修平が亜矢にプレゼントしたものだ。
それは亜矢が目覚めた時、首にかけられていた。
祐介は続ける。
「正直、俺はお前に惚れている。
それこそ、お腹の子が流産する事なく生まれる事になっても父親になってかまわない位にな。
だが、お前をどん底から救ったのは俺じゃない。あいつだ」
そして、祐介は帰るべく背を向けた。
「もし、あいつへの想いに踏ん切りがつけられるなら俺の所へ来い。何不自由ない暮らしをさせてやる。
だが、もしあいつへの気持ちが残っているなら、2度同じ過ちを繰り返すなよ」
そう言って、祐介は病室の戸の向こう側へと消えた。
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