チャーリーさんの花嫁−4page






 基本、我輩の仕事というのは毎日変わらぬものである。
 なにせ、人骨模型であるというだけだからして。
 本日最後のチャイムが鳴るのが聞こえた。
 午後5時に鳴る、全生徒下校のチャイムだ。
 学校によってはもっと遅くまで生徒が残っている学校もあるらしいが、方利辺小学校は生徒の安全を考えて午後5時で全部活も終わらせている。
 ノイズが理科室に備え付けられたスピーカーから鳴った。
 ほら、もうすぐいつもどおりの下校を促す放送が流れるはずだ。
 後は、この理科室を管理している教師が部屋を閉めて終わり。
 …のはずだった。






『生徒の皆さん。こんばんわ』
『真夜中の放送委員です』
『せっかくこんな時間まで残ってくださったんです』
『もっと遊びましょう。夜が明けるまで』
『…もっとも、死ぬまで明けることはないけどねー』





 ギャハハハッ
 そんな下品な声を残して放送は消えた。
 …なんだ?
 今のはなんだ?
『真夜中の放送委員』?
 七不思議にそんなものがあったが。
 誰かのイタズラか?
 それにしてはタチが悪い…。
 そして、いまさらに気づいた。
 蛍光灯がついている。
 なぜ? 外は明るいはず。
 だが、窓の外はまるで夜のように真っ暗だ。
 そして、我輩はもっと驚愕べき事実に気づいた。

「なぜ、窓の方を見る事が出来る!?」

 言葉を口にして今度は思わず口元を手で覆った。
 動く!?
 喋れる!!?
 そんなはずはない。
 我輩は単なる人骨模型だぞ。
 しかし、手も足も頭も、全てが我輩の意思で動く。
 体を固定していたフックも、少し体をずらすだけで簡単に外れた。
 ありえない事が次々に起こっている。
 しかし、モノである我輩が夢なぞみるはずもない。
 これは現実なのだ。
 とりあえず窓に駆け寄った。
 本当に夜なのか?
 確認してみると、違う事が分かる。
 それどころではない。
 なにもないのだ。
 道路も家も街灯も。かろうじて見えるのは学校の敷地内だけ。

「なにが、どうなっているのだ?」

 しかし、我輩は疑問に頭を悩ませる暇もなかった。
 悲鳴だ。

「くっ」

 そうして、我輩は理科室に配置されて以来はじめて、理科室を飛び出した。






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