ダークプリーストLV1 第五章−第05話
「野営の跡だな」
ダークエルフの集落から微かに残っていた馬の足跡を頼りに進んでいくと、焚き火の跡や多数のゴミが散らかっていた。
「悪い知らせだ」
グラムが地面におちていた、ゴミの一つを拾い上げた。マドカにはそれはまるでレトルト食品のパックのように思えた。
「保存食の容器だな。それもアポミアの紋章入りときたか」
「ああ、これで確定した。相手は単なる夜盗じゃない。光の側の正規軍だ。しかも率いているのは恐らく聖堂騎士だ。
そうでもなければ、こんな貴重なものを持ち出せないだろう」
聖堂騎士。マドカも書物で得た知識程度には知っていた。闇の側には存在しないが、司祭の資格と騎士を名乗る資格を両方持つ者。
光の側のエリートと言っていい存在だろう。
「馬の足跡が二つに分かれてるな。……片方はたぶん拉致したダークエルフを運んでいった連中やろうな」
「そして、もう片方は本隊。いくらなんでも奴隷商人と表立って取引する訳にはいかなかったんだろうな。問題はどっちが本隊か、だ。どっちも荷馬車らしき轍がありやがる」
ワルドは馬を下りて、地面の匂いを嗅ぐがすぐに顔をしかめた。
「ちっ、たらふく酒を飲んでやがる。匂いで判別は無理だ」
マドカは疑問を口にした。
「片方を進んで本隊だったら引き返すんじゃだめなの?」
「まず、本隊に見付かった場合のリスクが大きすぎる。よしんば、見付からずにここまで戻ってこれても、先に奴隷商人の手に渡っちまったらまず取り返すのは難しいと見ていい」
「なぜ?」
「一応、建前上でも奴隷はいない事になっているからな。隠された道で、しかもリスク分散の為にばらばらに運ばれる。そうなったらお手上げだ。
全員助けたきゃ、売られる前か、せめて取引中までに取り返す必要がある。
とても、寄り道してる時間はない」
「……」
マドカも馬を下りる。
選択を間違える訳にはいかない。だが、いつまでもここにいる訳にもいかない。
彼女はアルミスに祈った。
己が進むべき道がどっちかを。
それはまるで、アルミスが彼女の祈りに応えたかのようだった。
ヴィジョン。
脳裏に浮かんだイメージで彼女は行く先を決めた。
「こっちへ」
マドカは片方を指差した。
「エースが何かを見つけて、こっちへいったみたいです。恐らくこっちで間違いないです」
デイトンが呆れたように言った。
「恐らくというか、恐ろしいな、お嬢ちゃん」
「え?」
「自覚ないんか? ヴィジョンなんてそんな都合良く降りてくるもんちゃうやろ」
「マドカは特別なんだよ。色々な」
ワルドの大きな手が、マドカの頭を軽く叩く。
「私が特別かどうかは分かりませんが。アルミス様が道を示して下さいました。いきましょう。手遅れになる前に」
「了解」
ワルドが馬に乗り、その背にマドカが続く。
そして、マドカが指し示した方へ馬を走らせた。
「どうやら、間に合ったようだな」
グラムの声にホッとした響きを感じるのは気のせいだろうか?
小高い丘のから、少し先に幌付きの荷馬車を囲んで兵士達がいる。
「ここで馬を降りるべきだな。さすがにワシらの存在に気付かれる」
「そうやな。ここに繋いでおこうや」
全員が馬を降りて、少し丘を下りたところにある林に馬を繋げておく。
そして、マドカは気付いた。
いるっ。
「エース」
呼びかけた。すぐには姿を現さなかったが、ずっと見つめ続けられるのに耐えかねたのかようやく姿を現す。
「…なんで来たんだよ。これじゃ、俺一人で来た意味ないじゃないか」
彼の手には小振りなナイフが握られている。
恐らくそれが彼にとって精一杯の武器だったんだろう。
「なぜって? それはあなたが心配だったからよ。エース」
「エスファに累が及んだらどうするつもりなんだよっ」
「それはその時考えるわ。今はあなただけの事を考える事にしたの」
「っ?!」
エースは背を向けた。肩が震えていた。
「エース?」
思わず手を伸ばしかけるとその肩にワルドの手がかかる。
「そっと、してやれ」
「でも」
「男には見られたくない顔をしている時もあるのさ」
様子を見ていたグラムとデイトンは顔を見合わせた。
「お嬢ちゃんって、あれで結構」
「男殺しだよな。司祭にしておくのはおしいな」
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