DF−DarkFlame−-第七章-−1page






「ちっ、アタクシとした事が」

 屋根伝いに移動しながら、樹連は吐き捨てた。
 平時なら目立つだろうが、今はあちこちで騒ぎが大きくなっており、例え見られたとしても他の騒ぎに埋もれてしまうだろう。
 視界に倉庫群が見えて来る。
 その向こう側が【燈火】のテリトリーの境界であり、また新たに加入したグループへのショートカットになる。
 ほんの一瞬だ、樹連ほどの強者にしてもゴールを目の前にし、心にスキが生じた。

「なっ?!」

 黒い炎の壁が行く先を覆う。

「この程度でアタクシを止められるとでも思っているワケ?」

 気を取り戻し、炎術の”鞭”を具現化し、黒い炎の壁を消し飛ばす。
 それはあまりにもあっけなかった。
 そして、樹連は己の過ちに遅まきながら気付いた。
 その炎気は良く知っていたはずだった。
 炎術の”鞭”は自身が放つものとはまったく別の黒い炎で焼かれている。
 鞭を解除しようにも、焼かれる痛みが邪魔をしてうまくいかない。

「おのれっ、宿木っ! アタクシを裏切る気っ」

 炎気を感じ取り、焼かれながらそこへ鞭を叩きつける。
 例え直撃しなくても、衝撃で彼ごときどうとでもなる。
 しかし、そんな考えとは裏腹に鞭を通してさらなる灼痛が樹連を襲う。

「私等を裏切ったのはあんたでしょ」

 その言葉はどこから聞こえたのか。
 そして、それを合図に辺り一面に宿木の炎気が広がっていく。

「な、何をしたの?!」
「別に難しい事はしていませんよ。ここを通ると思って、そこらに私の炎術を貼り付けただけですよ」

 簡単に言っているが、無数に点在する宿木と区別のつかない炎気。
 それを維持し、制御するのはどれほどの高度な技か。

「だったら、相手にしなきゃいいだけでしょ」

 宿木の炎気を無視して先へ進もうとした樹連。
 しかし、その眼前に炎弾が襲い掛かる。
 それは樹連を直撃し、しかし全身に燃え移る前に彼女の渾身の力で弾かれる。

「…宿木さぁ。あんた死にたいの?」
「出来れば死にたくはありませんねぇ」

 今の炎術が破られた反動か、宿木の声は若干辛そうだった。

「でもね、落とし前ってもんがね。このままむざむざとあんたを逃がしたとあっては任務で燃え尽きた同士に合わせる顔がないんですよっ!」

 樹連の四方から炎弾が襲い掛かる。
 それが”付着”の炎術とは承知でも樹連は鞭で叩き払うしかない。

「くぅ、こんなものでぇ。アタクシを倒せると思ってるの!」
「いいえ、まさか。私ごときが三巨頭と対等に戦える等と。ただ、私はあなたを消耗させればいいだけです」

 かつて、使えないと嘲笑した宿木の炎術。それが今、樹連を確実に追い込んでいた。






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