DF−DarkFlame−-第七章-−6page
黒い霧、いや粒子状の炎術が接触した瞬間、寸断の炎術が消滅した。
「なっ、そんな馬鹿な」
「ちっ、こっちもだ」
万が一、樹連がこちらに来た時の為に具現させたままの剣が消失した。
悲鳴に似た驚きの声があちこちから聞こえる。
「たしかなの、宿木!」
「よーく知ってる炎気ですからね。それにこんな真似出来るDFは私は一人しか知りませんよっ! くそっ、なんだっていまごろになって!」
宿木が頭を抱える。
八識も頭を抱えたかったが、ふともう一つの変化に気付いた。
「樹連…もしかして、正気になってる?」
「なにっ?!」
先ほどまでの哄笑は消えていた。
無差別な破壊も止めて、喜色を浮かべている。
「アハッ、やはり、牙翼は嘘をついていた。あの方が、刃烈がアタクシをおいて消える訳がないのよっ」
両手を挙げて歓声を上げる。
が、次の瞬間きょとんとする。
身に纏っていた雷が、片手にもっていた小太刀が、そして彼女の炎術の《鞭》が霧にかき消されていく。
「刃烈?」
霧の奥から影が飛び出して来る。
しかし、それは彼女が待ち望んだ存在ではなかった。
「牙翼、まだアタクシの前に立ちふさがるの?」
炎術の《魔獣》に乗った健太郎は、樹連の少し手前で止まり、魔獣からおりた。
「健太郎! 炎術を解除しろ! 食われるぞ!」
「…いや、斬場さん。少し変ですよ」
「なに?」
「食われるなら、我々同様とっくに食われてます。いや、それ以前にこれが《捕食》の炎術なら、我々の器や本体も食われているはずなんですが」
宿木の言葉に残る3人は、向かい合う健太郎と樹連に目を向けた。
「この嘘つきが。なにが刃烈というDFはどこにもそんざいしない、よ。見なさい、この《捕食》の炎術。刃烈が存在するという証拠」
「ウソは言ってないよ」
「言ってなさい、永遠に!」
樹連は炎術の《鞭》を具現する。
すでに《捕食》の炎術によって食われているのに、それは身を切り骨を削るような真似だった。
そして、また《捕食》の炎術に食われる前にと素早く健太郎へと放った。
しかし、健太郎の一撃のほうが早かった。
「え?」
樹連の鞭を持つ腕が消失した。
魔獣ではない。
魔獣と鞭では鞭のほうが圧倒的に早いはずだ。
そして、健太郎へと目を向けた。
その手には鞭が握られていた。樹連の炎術の《鞭》が。
「え、え、え?」
健太郎の手にした鞭が霧散し粒子と化し別の形態へと変化する。
「あ、あ、あああああっ」
何かに気付いてしまったのだろう。
樹連は蒼白な表情で後ずさった
だが、それより早く健太郎が間合いを詰めて、炎術の《剣》で残ったもう片方の腕を切り落とす。
「し、知らなかったんです。ご無礼をお許しください。お怒りを納めて下さい」
「別に怒ってなんていない」
ただ、底なしに哀しいだけ
魔獣が走りだした。
中空より現れた刃が切り裂き、矢が貫く。
馬やオートバイが踏みにじり、そして。
「じ、刃烈…」
「捨て駒に…、気にかける覚えはないんだろ?」
衝撃の表情で健太郎を見る樹連。
そして、その真上に生まれた巨大な火球が落下する。
「お前は食わない。お前の炎術も返しておく。一辺たりとも僕の中に残しておくものか」
断末魔を上げる暇もなく樹連はその瞬間消滅した。
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