二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第一章 Missing−第01話
「ねぇ、私と付き合ってよ!!」
「は、はぁぁ?!」
校舎裏に呼び出されたと思ったらいきなり付き合ってと言われた。
呼び出しがラブレターならいざしらず千切って丸めたノートの紙片を授業中に投げつけられるという、なんというかロマンの欠片もない。
いやいやいや、そうじゃない。
「北大路、なんかの嫌がらせか? 俺だってあんなシーン好きで見た訳じゃないぞ」
「あー、それそれ。嫌がらせじゃないけど、その件があったから速水に付き合って欲しいの」
「なんだ、そりゃ。俺はただあそこにいただけだぞ」
「いいから、話を聞く。つまりね――」
「しゅーちゃんっ!」
来たかっ!
いつも鉢合わせしないように修平は早い目に家を出るのだが、そんな努力はロックオンされたミサイルの如く追いかけてこられては意味がない。
「だーかーらー、そのしゅーちゃんってのは止めろっていってるだろっ、亜矢」
「えー、だってしゅーちゃんはしゅーちゃんでしょ?」
はぁ、はぁと息を切らしながら不思議そうに追いついた亜矢が首を傾げる。
この一つ下の幼馴染は昔から修平を兄のように慕ってきて、一人っ子の修平としても妹のような存在の彼女を多少甘やかしていたが、それが災いしたのか、いつまでたっても幼少の呼び名を改めてくれない。
高校に入ってからは、もう周りの視線を気にしなくていいと思っていたら、学年が上がるとなんと同じ学校に亜矢が入学してきたのだ。
修平の知る限り、亜矢の学力ではもう一つランク下がせいぜいだったはずなのにである。
考えるまでもなく、修平を追う為に猛勉強したのだろう。
その結果、毎日のように登校時に「しゅーちゃん」呼ばわりで付きまとわれて、他の登校中の生徒達の好奇の生暖かい視線を集める事になる。
「だいだいなんでお前はいつも一人で登校しないんだっ」
「えー、小学校の時からいつも一緒だったでしょ」
「家が斜向かいだってだけだからだろ、一人じゃあぶないからっておばさんに頼まれてたし」
「じゃぁ、今でも一緒でいいでしょ。女の子が一人で歩いてると危ないよ?」
「その歳で登下校にどんな危険が有るんだっ」
力説する修平の背中を大きな音を立てて叩いて女生徒が追い抜いていく。
「おはよー、速水君。今日も仲良く登校?」
「痛いっての。北大路ってもうあんなところか。あいかわらず速ぇな」
「足速いよね、あの人」
恐らく、本人はタッチのつもりだろうが、走る勢いで弾みがついているせいか、修平は前へつんのめりそうになるが、苦情を言う前にもうその背中は小さくなっている。
彼女、北大路美月は修平のクラスメイトだ。
どこの部にも所属していないが、抜群の運動神経を誇り時々運動部の助っ人として試合に出ていたいりする。
おまけに頭脳明晰容姿端麗ときては、運動部ならずとも彼女を狙っている者数知れずだが、射止めたものは修平の知る限りいない。
噂では家がお金持ちで、すでに婚約者がいるとかいないとか。
「前回のテストでも学年トップだったしな、完璧超人ってあんな奴を言うんだろうな」
「にゃー? しゅーちゃんも頭いいでしょ?」
「馬鹿、格が違うよ。3位以上が当たり前の奴と50位台前後がやっとの俺じゃ」
「そんなに違う?」
「いや、まぁ。赤点すれすれのお前からしたら同じように見えるかも知れないけどな」
「ひどーい。えい」
「こらっ、叩くな、痛いだろーが」
拳をぶんぶん振り回す亜矢の攻撃を、カバンでガードする様を登校中の生徒達はクスクス笑いながら通り過ぎていった。
もはや、朝のいつもの光景と化していたが、二人はそれに気付いていない。
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