二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第一章 Missing−第02話






 昇降口で上履きに履き替えるのだが、ここで学年の違う二人は分かれる事になる。
 履き替えた後、結局合流する事になる訳だが。

「よぉ」
「お、健二。久しぶりだな」

 先に上履きに履き替えていた欠席、途中帰宅の常連、伊田健二が声をかけて来た。
 特に親しくしていた訳ではなかったが、いわゆる不良っぽいイメージが先行するスタイルのせいか、彼と話をする生徒は限られる。
 修平は特に相手の外見を気にするタイプではなかったので、普通に接したのだがそれが気にいられたらしく、こっちから話しかけなくても向こうから声をかけてくる。

「今回はえらく長かったな」
「んー、ちょっと後輩が面倒な事に絡まれててな。
 まぁその件でいそがしくて学校来る暇なかったんだわ」
「もう、そろそろ留年決定じゃないのか?」
「かもなー。まぁ、去年留年せえへんだけでも奇跡ってもんやし。
 各学年毎に2回までは留年しても退学にはならへんやろ? そう考えれば気も楽や」
「留年の限度を計算に入れるなよ……。授業さえまともに受けてればそこそこ点取れる奴なんだからお前は」
「俺だって、毎日学校には来たいくらいや。気が安らぐからな。
 でも、そうもいかんねんな。行きがかり上、面倒みなあかんのが仰山いとるし」
「何やってんだかな」

 修平は肩を竦める。

「お、そういえば。あのおチビちゃんはどないした?」

 健二の質問と同時にそのおチビが下駄箱から顔を覗かせた。

「しゅーちゃん、まだー?。あー、健二さんだ」
「よぉ、久しぶり。元気にしとったか?」

 まるで親戚の挨拶のような言葉をかわしながら、健二は亜矢の頭を撫でる。
 その手から逃れて、亜矢は腰に手を当てる。

「もうっ、子供扱いしないで下さいったら」
「そういわれてもなぁ」

 健二は、亜矢の顔、胸、腰。順番に見て最後に上履きを履き終えた修平の顔を確認するように見る。

「亜矢ちゃんじゃなぁ」

 修平は突然話を振られて反射的に頷いた。

「しゅ、しゅーちゃんまで……。馬鹿ーっ」

 顔を真っ赤にして亜矢は走り去っていく。

「ちょっと、まずかったやろか?」
「大丈夫、どうせすぐ忘れるから、鳥より少しマシ程度だからな」
「そっか」

 後に残された二人は教室へと向かった。





 教室に入ると修平と健二は別れてそれぞれの席に移動した。
 修平は座ろうとして、ふと美月の様子がおかしいのに気付いた。
 丁度、真横位置に立っていたから見えたのだが、きれいにラッピングされた箱を膝の上に置いて顔をしかめている。
 修平の視線に気付くと美月はすぐに箱を机の中に隠した。
 そして、斜め前の席にいる加太俊夫を睨み付ける。
 視線に気付いた加太はへらへらと笑いながら手を振った。
 美月の表情が目に入ってないのだろうか?
 諦めたようにため息をついて美月は1限目の用意をし始めた。
 プレゼントと一緒にラブレターでも入っていたのか?
 興味がないと言えば嘘になるが、わざわざ首を突っ込むほど修平は野暮ではなかった。
 自分の席にもどって、1限目の準備をし始める。
 他の席では友人知人からノートを借りて急いで宿題をしている輩もいたが、修平はその辺は真面目に家で終えていたので、余裕をもって席に着いた。






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