二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第一章 Missing−第08話






 週が空けて月曜の朝。
 通学路を歩いていて、いつもなら亜矢が追い付いて来るタイミングでも姿を見せなかった。
 身に覚えがあるしな……
 胸にしこりを残しつつ一人歩いていた。

「おっはよー」

 勢いよく背中をタッチされ、前につんのめりそうになる。
 美月はあいかわらずの元気だ。

「おう、おはよう」
「あれ? おチビちゃんは今日もいないの? 週明けならいると思ったんだけど」
「まぁ、一応お前と付き合ってる訳だしな。あいつも居辛いんだろ」
「ふぅん」

 美月は修平の背中に手をまわして、体を押し付けてくる。
 柔らかな胸の感触を感じて顔が赤くなる。

「お、おい」
「いーでしょ。恋人同士なんだし」
「お、いつの間にそんな関係になったんや?」

 声をかけて来たのは健二だった。

「な、い、しょ。それより珍しく遅刻なしで登校?」
「ああ、やつらがまた朝からおっぱじめやがってな。寝てられねーっての」

 修平には意味がいまいち掴めない。
 その事に気付いたのか、健二は話を打ち切った。

「先行ってるわ」

 そう言って早足で前をいく。
 修平は美月に聞く。

「どういう事?」
「うん、私と伊田君は中学同じだったから知ってるんだけど、家庭環境があまり良くないみないなの。
 さっきのようすじゃ改善されてないみたいね」
「はじめて知った。健二とはそこそこ話すのに」
「あいつにとって学校こそが数少ない心安らげる場なのよ。
 家庭のごたごたを持ち込みたくないんでしょうね」
「だから、学校で問題を起こさないのか」
「うん、中学の時も逆に問題児をおとなしくさせてたわ」
「健二や美月と違って、ウチの親は平凡だけど恵まれてるのかも」
「ウチも太平楽なだけで問題があるわけじゃないわよ」

 美月が心外とばかりに言った。





 休憩時間、修平は用を足しに廊下に出ていた。
 自分を見ている視線を感じてはいたがあえて無視してトイレに駆け込む。
 捕まって、休憩時間が終ってはかなわない。
 とりあえず、用を足してからその視線の主に声をかける。

「加太、何か様か?」

 美月と付き合うフリをする以前の彼とはまるで別人だった。
 いや、もしかしたら修平と美月以外の前なら、今まで通りの様子だったのかも知れない。
 だが、今目の前にいる彼は目を血走らせ、まるで今まで激しい運動でもしていたかのように息が荒い。

「お前、北大路さんと付き合っているのは本当か?」
「ああ、そうだ」

 間髪いれずに返答する。
 その為の付き合っているフリだ。亜矢を傷つけてまで、行っているのだ。
 返答に迷うはずがない。

「よくも、ぬけぬけと」
「なんだよ、美月と付き合うのにお前の許可がいるか?」
「っ!!」
「お前が美月に付きまとっていたのは知っている。
 だが、それもいい加減止めにしてもらおうか」
「それはこちらの台詞だよ」
「なに?」
「お前なんか北大路さんと釣り合わない。
 そのお前が付き合っていると抜け々々と言った事、必ず後悔させてやる」

 そう言って教室に戻って行った。
 気味が悪いこと言いやがって。
 修平は嘆息したが、そこで予鈴が鳴る。

「おっと」

 修平も教室へと急いだ。






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