二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第一章 Missing−第10話






 修平が怪我をしてから数日が経った。
 傷はもうほとんど目立たなくなっていた。
 ……が、傷の快方とは裏腹に深く深く沈んでいた。

「どうしたのよ、いったい」

 放課後、美月が問いかける。

「亜矢ちゃんの事?」
「いや、それはもういつもの事だろ、それより先生が言ってたろ」

 言われて美月は先生とやらが言った事を逆順でサーチしていくが、思い当たるものにヒットしない。
 そんな美月の様子を見て修平が言った

「中間テストだよ」
「ああ、確かに言ってたわね。それがどうかしたの?」

 1位常連、3位以内当確の美月に問われて、修平が突っ伏した。

「前回、前々回と着実に順位が下がってるんだよ、俺は」
「確か、修平君って」
「50位台、今回はそれを割るかもな」
「一般的に考えてそんなに悪い成績じゃないんじゃない?」
「まぁな。別に順位そのものにこだわりはないんだ。ただ、連続で下がってるってのがなぁ。手抜いてる訳じゃないし」
「なんだ、そんな事だったの」

 修平は顔をしかめる。

「なんだはないだろう。完璧超人のお前と違って俺は一般人なんだ。成績くらい悩ませてくれ」
「完璧超人ってのがちょっと引っかかるけど……、そんな後ろ向きな事考えるより前向きな事を考えない?」
「ん? 前向きって?」
「誰かに勉強を教えてもらうとか」
「誰かって誰だよ。うちには塾にいく余裕も家庭教師を雇う余裕もないぞ」
「何言ってるの目の前にいるじゃない」

 言われて美月を見上げた。

「私が教えてあげるわ。中間テストまでみっちり」

 確かに。美月なら下手な家庭教師よりうまく教えてくれるだろう。
 だが、

「あー、でも。ウチって専業主婦って奴でいつも母さんいるんだよな」
「じゃぁ、ウチにくればいいじゃない」
「いっ?」

 あの豪邸へ?!

「お父さんは出張中だし、お母さんはいつも家にいるけど、隣の別宅で仕事してるし」

 ……別宅まであるのか、あそこに。
 突っ込みたかったが始めたら限がなさそうなのでやめにした。

「仕事って、美月のお母さんって何してるんだ」
「一応、画家よ。彫刻とか版画とか色々と他の事にも手をだしてるけど」
「へー、そういえば美術の成績もいいもんな」

 家がお金持ちってだけでも一種のステータスなのに、芸術家の血まで引いているとは。ますます完璧超人に磨きがかかっている。
 話を打ち切るように美月が手を叩く。

「はいはい、でどうするの」
「そうだな。ありがたくお邪魔するよ」

 勉強が主目的だが、他にも美月が普段どんな生活をしているか興味があった。

「じゃぁ、さっそくいくから。片付けて帰るわよ」
「了解」






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