二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第一章 Missing−第11話
「あっ」
なんだか久しぶりに亜矢に出合った気がした修平だった。
丁度、昇降口前で出くわしたのだが、向こうも予測してなかった邂逅に言葉を失っている。
だが、すぐに持ち直して頭を下げて去ろうとする。
「お先です。北大路先輩、速水先輩」
速水先輩と来たか。
修平は内心頭を抱えた。
しゅーちゃん呼ばわりに辟易していたとは言え、速水先輩という呼び方には悪意を感じる。
相当怒ってるな、これは。
しかし、美月の面の皮の厚さは相当だった。
にっこりと、
「じゃぁね、亜矢ちゃん」
二人の間に火花が飛び散っているように見えたのは修平の錯覚だろうか?
「じゃ、早くウチに行きましょう、修平君」
「えっ!!」
美月の聞こえよがしな声に亜矢が驚きの声を上げる。
「ち、違うぞ。亜矢。勉強を教えてもらうだけだからな」
「あら、それだけ? 付き合ってるんだから、もっと進展あるかも」
「お、おい、美月」
次の瞬間、亜矢は駆け足で下足箱までかけていった。
学年で下足箱の位置がかわる為、亜矢の様子が見えないが長い付き合いだ、涙をこらえてる様子が透けて見えるようだ。
「おい、なんか亜矢に恨みでもあるのかよ。長年の付き合いをぶち壊す権利があるのか?
事と次第じゃ手を引くぞ、今回の件から」
割と本気で修平は言った。
だが、美月は淡々と
「恨みはないけど、理由はあるわよ。修平君には言えないけどね」
「なんだよ、それ」
「言ったでしょ。言えないって。それとも降りる?」
いまさらだ。単純な嫌がらせなら間違いなく付き合うフリなど止めていたが、理由があるというのなら今は抑えよう。
少なくとも、今まで美月と付き合ってきてそれがウソでない事くらいは分かる。
「まぁ、いずれ分かるわよ」
「そう願いたいね」
二人は靴を履き替えて昇降口をでた。
相変わらず、目の前に立つだけで圧倒される北大路邸。
「そういえば、美月の親父さんって何やってるんだ?」
「基本的にはデパートのオーナー。まぁお母さんみたいに他にも色々手を出してるみたいだけどそこまでは把握してない」
そう言って門を開けて敷地内に入る。
「あ、お帰りなさい、お嬢様」
「ただいま、良美さん」
庭掃除をしていたメイド服が駆け寄ってくる。
「あ、前に紹介してなかったよね。こちら木見原良美さん」
「どうも」
「あはは、お嬢様もとうとうボーイフレンドを家に呼ぶようになりましたか」
「詮索はいいから。後、くれぐれも余計な事しないでね、いい」
「勿論です」
あまり信用していない様子の美月だが、諦めて屋敷に向かう。
修平は不思議に思って聞く。
「余計な事って?」
「知らなくていいわ。どうせ、知るハメになった時には手遅れだし」
「……よくわからないけど。さっきの人っていわゆる使用人って奴?」
「料理人」
「……」
「お母さんが仕事で忙しくて食事の用意できないから住み込みで雇ってるの。
料理だけでいいって言ってるんだけど、暇だからって雑用してるの」
「なんでメイド服」
「あの人の趣味、ちなみにあの服作ったのはお母さん」
沈痛な面持ちで目尻を押さえる美月。
「ちなみにナース服とか巫女衣装とかもあるけど、それだけは全力で止めたわよ」
「……よくクビにならなかったね」
「基本、ウチの両親は面白がりだから。それにあの人、料理の腕は超一流だしね」
「ふーん」
振り返ると、話題のメイド服はせっせと庭掃除を再開していた。
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