二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第一章 Missing−第12話
やはり、部屋の広さは家の大きさに比例するらしい。
美月の部屋は、下手をすると修平の家の敷地面積ぐらいありそうだった。
ただ、だだっ広いだけでなく、パソコンやオーディオ、その他見た事のないような機械類までがシステマチックに配置されている。
「すごいな」
「まぁ、見てくれはね」
「見てくれはって、サーバーラックまであるじゃないか」
「……普通の高校生が何に使うの、そんなもの」
「まぁ、確かに」
そして、部屋の一角にあるアコーディオンカーテンで仕切った部分に足を運ぶ。
カーテンを開くとその空間だけは、ごく普通の高校生の部屋っぽくなっていた。
「わざわざ作ったのか? これ?」
「落ち着く場所が欲しかったのよ」
「まぁ、気持ちは分かるけど」
わざわざ自分の部屋に普通の空間を作る時点で普通ではないとは思ったが、それは美月自身が重々承知の上だろう。
「じゃ、時間がもったいないし始めましょうか」
ローテーブルを挟んで二人は、それぞれ教科書等を取り出した。
「ああ。あ、でも今日の授業になかった教科は」
「予備ならそこにあるから、心配いらないわ」
「予備?」
美月の指差す方を見ると本棚に同じ教科書が何冊も並んでいる。
「……すげーな、お前の親」
「お花畑なだけよ」
じゃぁ、さっさと始めましょうと、美月が教科書を開いて、修平もそれに倣った。
メイド服こと、北大路邸専属コック良美は美月たちが屋敷に入ったのを確認してからポケットから携帯電話を取り出した。
電話帳から目的の相手を選び、発信ボタンを押す。
すぐに繋がった。
「あ、旦那様。良美です。実はお嬢様が――」
美月の教え方はうまかった。
教鞭とっても問題ないんじゃないかと思えるくらい。
さすがに暗記モノは修平自身が努力するしかないが、解法があるものについてはある時は別の何かに例え、ある時は画用紙を持ち出して図を書いて説明する。
成績が良い者は教え上手でもあると聞いた事があるが、美月に関しては間違いなく真実であった。
そして、その教え上手さのあまり時間が経つのを忘れていた。
「あ、もうこんな時間か」
修平は慌てて時計を見た。
いつもなら夕飯を食べている時間だ。
美月も時間を忘れていたらしく、悪かったわねと謝る。
そして、
「ウチで食べていけば?」
「へ?」
「いまから帰ってもかなり遅くになるでしょう? 良美さんなら一人くらい増えても問題ないわよ。
材料はかなりストックしてあるはずだし」
修平は今から帰った時の事考えた。
たしかにかなり遅くなる。そして、今現在ですでにお腹は空腹を訴えている。
熟考の末、修平は美月の言葉に甘える事にした。
実はそれが美月すらも気付かぬ大きな罠とも知らず。
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