二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第三章 Road−第11話
深夜。
修平が待ち合わせ場所に行くと、健二と祐介が先にまっていた。
祐介は修平の顔を見ると笑いながら皮肉った。
「おー、男前になったじゃねぇか」
しかし、修平はこともなげに返した。
「もっと男前になるかも知れませんよ」
「ほう? 話があるとか聞いたが興味がわいてきたな。だが」
祐介はタクシーを止める。
「とりあえずメシでも食いながら話そうぜ。どうせ、短い話でもないんだろ」
祐介は助手席に乗り込み、修平達は後部座席に乗り込んだ。
二人が連れてこられたのはいかにも高級そうな中華料理店だった。
修平が健二に耳打ちする。
「おい、こういう店って服装とかちゃんとしてないと入れないんじゃないのか?」
「いまさら言うてもなぁ。それに祐介さんが連れて来たんやし」
後ろの二人にかまわず、店先のボーイに祐介は声をかける。
「オーナーに奥の部屋を使わせてほしいと伝えてくれ。それと」
後ろを振り返りにやっと笑って
「こいつらのドレスコードがなってないのは勘弁してくれとも伝えてくれ」
ボーイは一礼すると一目散に店の奥に消えていった。
どうやら、よく知っている店のようだ。
しばらくすると、恰幅の良い中年男性が店先に出てきた。
「別にオーナー直々に出迎えに来る程の事でもないだろ」
「いえいえ、昔のご恩と日頃お世話になっている事を考えると下のものになど任せられません」
「たいした事をした覚えは無いがな」
「あなたはそれでいいのですよ。私達がそう思っている、それが大事なのですから。ささ、後ろのお二方もどうぞ中へ」
オーナーが先導して奥へと案内される。
行き着いたのは店の高級感とは釣り合わない質素な感じのドアだった。
オーナーがドアを開き、どうぞと3人を中へ入るよう示唆する。
部屋の中も簡素で中央に回転テーブルとそれを囲む椅子が並んでいた。
「この部屋でしたら少々声を上げたくらいでは盗み聞きは出来ませんし、盗聴対策も万全です。お料理のほうはどういたしましょうか?」
「適当に腹にたまるものを出してくれ」
「承知いたしました」
オーナーは一礼して、部屋を出ていった。
「さっそくですが、祐介さんはヤクザなんですか?」
何の気負いもなく聞く修平だったが、健二は真っ青になった。
祐介は面白そうに聞く。
「なぜ、そう思った?」
「さっきのオーナーとのやり取りです」
「残念ながら、少し違うな」
「祐介さんはブローカーなんやっ」
「ブローカー?」
健二の言葉は修平には、あまりなじみのない言葉だった。
「まぁ、簡単に言えば。人や物を調達するのが生業なんだが。
実際のところは色々手を伸ばさざるを得ない所だな。
事情があってな」
「事情ってなんです?」
「さっき、お前はヤクザと言ったが、はっきり言ってこの街にヤクザなんかいないのさ」
「えっ?!」
「厳密に言えば事務所くらいはあるが、下っ端が電話番してるくらいだ。大本は地下に潜っちまってる。
法による締め付けで、もう表じゃ身動きできないのさ。まぁそのあたりの事情はこの街に限った話じゃないが。
だが、それまでやってたシノギ、ヤクザの商売だな、こいつを捨てるわけにもいかない。
それで白羽の矢がたったのが、ブローカーやエージェントって呼ばれるグレーゾーンの住人さ」
「ヤクザを引き継いだって事ですか?」
「まぁ、そうとも言えるな。
ただ、あくまで管理を任されてるだけだから、いわゆるシマ争いみたいなものは発生しない。……普通はな」
祐介は最後の一言だけ皮肉っぽく付け足した。
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