二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第三章 Road−第13話






 テーブルの料理が8割方片付いた頃だった。
 唐突に修平が提案した。

「もし、亜矢がコンパニオンを抜ける事ができたら。
 祐介さん、あなたは亜矢を保護してくれますか?」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味です」

 修平と祐介はしばしお互いを見詰め合っていたが。

「俺のプライド、いや、俺の命に賭けて誰にも手出しはさせない。そう約束しよう」
「分かりました」
「無論、お前の言う事が実現したら。というのは分かっているな?」
「その事でお願いがあります」
「なんだ?」
「あなたはブローカー、調達するのが仕事とさっき聞きました。……ぜひ、調達して頂きたいものがあります」
「……試しに言ってみな」





 修平と健二を降ろし祐介だけを乗せてタクシーが去った後、健二は大きくため息をついた。

「お前、なにもんやねん」
「ただの高校生だって、健二も言ってただろ」
「俺の方があの人との付き合い長いのに、なんやあの堂々とした交渉ぶりは。
 俺の寿命何年縮んだと思ってんねん」
「俺も心臓何度か止まりそうだったよ」
「うそつけっ、まるで対等な話しぶりやったやんけ」
「ただの高校生のままじゃ、あの人から重要な情報を引き出せなかったかも知れなかったんだ。
 平気なフリをしていただけだよ。本当は生きたここちがしなかったよ」
「たいしたもんやな、亜矢ちゃんの為とはいえ」
「たいした事になるのはこれからだよ」
「……祐介さんに頼んだ調達の事か?」
「ああ、祐介さんの事だから調達自体は問題ないと思うけど、後は俺次第だ」
「なんか、手があって言うたんやろ?」
「考えてる事はある。ただ、それが通るかどうかはまるで分からない」
「……それでもやるんやな」
「ああ、それが亜矢に対しての俺の落とし前だからな」





「どうぞ」

 ノックの音に美月は返事をした。
 今日は平日だから母か、そうでなければ達郎だろう。
 しかし、予想は裏切られた。

「修平君?! 学校どうしたの?」

 美月の声には応えず無言で抱きついてきた。

「修平……君?」
「ずるいって思ってる。だけど、今だけはこのままいさせてくれ。
 美月の勇気を分けてくれ」

 微かに修平の身体が震えている。
 それを抑えるように、美月もまた修平を抱き返した。
 そして、どれくらいの時間がたったろう。
 修平が美月から離れた。

「ありがとう、美月」
「ちょっと待って。こっち来て」

 そう言って病室から出ていこうとする修平を呼び返す。
 怪訝な表情で寄ってきた修平の首に十字架のペンダントをかける。
 普段美月がかけていた、修平からのプレゼント。

「それを貸してあげる。だから必ず返しに来てよね」

 美月にも修平がこれから危険な所へ行こうとしているのが分かったのだろう。
 そして、それが修平にとって避けられない道である事も。

「必ず返すっ!」

 そう宣言して病室を出て行った。





 病院の外へ出ると健二が待っていた。

「本当に行くつもりなんやな?」
「いまさら後にひけないだろう? 祐介さんにも迷惑かかるし」

 修平は笑ったが、健二は逆にその笑顔に不安を感じた。

「ここから先は俺だけでいいよ。健二は――」
「あほぬかせ。ここまで付き合わせておいて、最後だけ除けもんにすんな」

 健二にも修平がどう事態を収拾するかは見当もつかなかった。
 ただ、修平が行う事、それを最後まで見届ける決意をしていた。






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