マガツ歌−05page






 翌日。コウは学校で静流と話し、父親から聞いた話を全て伝えた。
 そして、放課後。下校してから、二人は長いトンネルを歩いていた。
 学校から真月神社にいくにはここを通らねばならないからだ。

「それにしても納得出来る気持ち半分、納得出来ない気持ち半分ね」
「ウチが奉ってたのは実はマガツ歌って事か?」
「最初の人も、めぇも御神木で死んでいた。
 御神木になんらかの意味があるのかなと思った事はあるけど、まさか御神体そのものがマガツ歌だなんて」
「親父は御神木は神を降ろす依り代だって言ってたから、御神体って言うより神霊って言うほうが正しいんだろうな」
「その区別は良く分からないけど、もっと分からないのはなぜ2年前からマガツ歌に関わる死者が出たの?」
「そこのとこも親父に聞かないとな」

 トンネル灯の端が見えた。出口だ。
 人口の光の輪を抜け外に出ると隣に静流がいない。

「静流?」

 彼女は出口近くの壁を見ている。
 コウはやむなく戻る。

「どうしたんだ?」
「これ」

 彼女は指差す先はトンネルの壁。
 一面落書きだらけだか、それはここに限った話ではない。

「公共物を汚すやつらの気はしらねぇけど、今はそれどころ――」
「これ、めぇの字だ」
「え?」

 改めて彼女の指差す先。そこに書かれた文字。

『輪をくぐってはだめ』

 油性マジックで書かれているそれは、二人が良く知るクセ字だった。

「そういえば、トンネルで見付かったんだよな。めぇのカバン」
「うん」

 静流の指が文字に触れた。

「めぇ、あなた。抗ったの?」

 答えを返す者はもういない。





 真月神社につくと信行が外で待っていた。
 普段の作務衣姿ではなく、祭事の時に着ている正装をしていた。

「こんにちは、おじさん」
「ああ、話の一部はコウから聞いているだろうが、これから静流ちゃんが知る事は、静流ちゃんにとって知りたくない事だったり、役に立たないものであるかも知れない。
 それでもかまわないかね?」
「私はたぶん……、めぇと同じになると思います。
 でも、何が起こっているのか、何故こうなったのか。めぇだって知りたかったはずです。
 だから、めぇと同じ場所に行く事になったら教えてあげたいと思います」
「不吉な話してんじゃねぇ」

 コウは苛立って、

「3年前までは何もなかったんだ。この2年で何かあったんだ?」
「付いて来なさい」

 信行が歩いていく。二人はその後に続く。
 神社を抜け、住まいを抜け、そして蔵の前まで来る。

「ここになにがあるんだよ? 半年に一度くらい片付けてるだろ?」
「そうだな」

 蔵の入り口には特に鍵は掛かっていなかった。
 中には脚立やはしご、ロープ、何に使うのか分からない台など色々なものがあった。
 蔵の中は格子窓から漏れる日の光で多少薄暗くはあったが十分な光量がった。
 だが、信行は大型の懐中電灯に灯をつけた。
 明かりを向けた先は南京錠で封されている観音開きの物入れだ。
 信行は鍵を取り出し南京錠を外す。

「もしかしてこの中に何かはいってるのか?」
「……まぁ、当たらずとも遠からずだ」

 信行が戸を開くと、その先は暗闇だった。ライトで照らされ階段が見える。

「この先にあるんだ。親父さん、いやおじいさんから俺が引きついだ。真月神社の……、そして真月村の闇歴史がな」






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