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マガツ歌−06page






「親父、空気とか大丈夫なのか。酸欠で死ぬのはごめんだぞ」
「心配せんでも空気穴が通っておる。それに入るのは初めてではないでな。
 そら、付いたぞ」

 階段を降りた先。それは小さな部屋になっていた。
 信行の持つライトがその奥を照らし、静流が小さく悲鳴を上げた。
 位牌だった。
 それも一つや二つでない。
 壁一面に並んでいる。
 コウもあまりの光景に絶句している。
 あらかじめ知っていた信行だけが淡々と脇の壁の書棚から古い書物のうちの一つを抜き出す。
 位牌の前にあった台にライトを置き、古さ故に脆くなっている本を破かないように慎重に捲っていく。
 そして、目当てのページを見つけたのだろう。
 固まっている二人を手招きする。

「見なさい。これがマガツ歌だ」

 コウが目をむいた。静流が息を飲む。
 そのページには古い時代の絵が描かれていた。
 注連縄がかけられた木は御神木だろう。
 その周囲に人が集まり、そしてその一角に台のようなもの。そこに立つ女性。
 そして――その女性の首には縄がかけられていた。

「親父これって」
「ああ、生贄の儀式って奴だ。
 随分と昔になるが、真月村では年に一度、神に生贄を捧げてきた。そして代々それを取り仕切ってきたのが俺達、真月家の先祖だ。
 まぁ、入り婿の俺は直系じゃないがな。
 マガツ歌に捧げられし者はまたマガツ歌となる。おじいさんからは俺はそう聞いていた」
「なぁ、親父。この位牌ってもしかして」
「聞くまでもないだろ。すべてマガツ歌に捧げられマガツ歌となった人達さ」

 位牌の数から相当な年数続けられてきた事が分かる。

「でもちょっとまてよ。今こんな事やってないんだろ? 親父も言っただろ闇歴史だって」
「まぁな。ただ、自主的に止めた訳じゃないんだ」
「どういう事だ?」

 それには答えず、信行は静流に聞いた。

「静流ちゃん。歌は聞こえるかい?」
「はい、凄くはっきりと。もしかして、私の聞いていた歌ってここから?」
「それは俺にも分からない。分かっているのはマガツ歌ってのは神と言っても富や繁栄をもたらすような普通の神と違う、いわゆる祟り神だって事だ」
「祟り神……ですか?」
「奉り、生贄を捧げなければ村人を祟る神」
「そんなのただの迷信だろっ」
「それが真実かどうかはともかくとして。コウ、その位牌の数が物語っていると思わんか? 当時の村人がどれほど祟りを、いやマガツ歌を畏れていたかを」

 言われてコウは位牌を見やる。
 生贄は年に一度。にも関わらずこの数。

「……じゃぁ、なんで今はやってないんだ?」
「おじいさんから聞いた話じゃ、たまたま訪れた高僧が話を聞いて巻物にマガツ歌を封じたらしい。
 それ以後、生贄の儀式そのものは無くなったが。
 世間に知られたいような類の話じゃないしな。誰もが口を閉ざし、今じゃ知るのは真月神社の人間だけになった訳だ」
「おじさん、あれは?」

 静流は書棚の上にあった桐箱を指差す。

「聞こえるのかい?」
「はい、でもなぜ?」
「親父、どういう事だよ。静流何を言ってるんだよ」
「黙ってろ。今、見せてやるから」

 信行は桐箱を手に取り台の上に乗せる。そしてフタを開けた。
 中には紐でくくられた巻物があった。

「親父。もしかしてそれって、さっきの話にあった」
「ああ、恐らくな」

 信行は巻物を取り出し紐を解く。と、その時まるで砂が落ちるような音がした。
 巻物を台の上で広げてみると、漢詩と思わしきものが書かれていた。

「なんだこれ?」
「古い字体も使われているし俺にも読めなかったが、ご丁寧にも解読してくれた人がいたよ。2年前にな」
「2年前?」

 それは丁度、マガツ歌に関わる事件が始まった年。

「おじさん。これ、蝋ですか?」

 静流が桐の箱から白い粉をつまみだした。

「ああ、元々蝋で封をしてあったんだよ。
 それを2年前、あの学者様が解いちまったんだ。そして、数日後だよ。
 あの事件が起きたのは」






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