ダークプリーストLV1 第一章−第08話






 リーリスを取り囲んで襲い掛かった男達。
 それがまるで見えない竜巻に巻き込まれたように宙を舞い地面に叩きつけられる。
 何が起こったのかマドカにはさっぱり分からなかった。
 リーリスがこちらに気付く。

「あ、マドカ。待っててって言ったのに。危ないから近づいちゃダメよ。ほら、他の人も離れて離れて」

 承知済みなのか、通行人も距離をとって見物している。
 男達が立ち上がる、今度は剣を抜いている。

「フォ、フォースエクスプロージョンか。だか、そんな大技何度も使えるもんじゃねぇだろ。やるぞ、お前ら」

 一人の合図と共にまたも三人がばらばらに襲い掛かる。
 リーリスには、まるでそれが見えていないかのように、穏やかにそれを口にした。

「偉大なるアルミス。我が周囲は敵なれば、その御力を持って我が周囲を弾け」

 またもや男達が巻き上げられ、地面に叩きつけられる。
 マドカはようやく理解した。これが法術。
 そして、竜巻のリーリスと呼ばれていた理由。

「ぐっ、くそ」
「まだだ。次こそは」
「あ、ちなみに」

 男達を見下ろしてリーリスは言う。

「確かに何度も使える法術じゃないわよ。ただし、全力でやってるんだったらの話ね」
「畜生、司祭のくせにこんな乱暴な真似していいのかよっ」
「あらら。お里が知れるわね、その台詞。
 あいにくお堅い太陽神の司祭達と違って、あたし達の崇める暗黒神の教えは、感情は尊く、己が感情に従え。
 ……故にあたしはあたしの感情にしたがってあんた達に裁きを下す。もうこの店に二度と近づく事すら出来ないくらいね」
「ふざけるなぁっ」
「殺してやるっ」

 血走った目で男達が三度襲い掛かる。
 今度は先程よりも高く舞い上がった。
 そして、激突音と悲鳴が次々上がる。

「これでもまだ手加減してんのよ。アルミス様の教えは感情に従えだけどさ。
 まだ、手加減が出来てる内に引いたほうが利口だと思うけど」

 リーリスの口元は笑っていたが、目が笑っていなかった。

「ひ、ひぃ」

 男達の腰が完全に引けていた。

「やったぁ、リーリスお姉ちゃん」
「あ、まだだめよっ!!」

 終ったと思ったのか、ゴブリンの子供達が駆け寄る。
 だが、先頭を走っていた子供の姿が掻き消えた。

「まだ運が尽きてなかったみてーだな」

 地面に腰を落としたまま、男達の一人が子供の首に手をまわし、刃をあてる。

「さぁ、さっきのヤツやってみろよ。このガキがどうなってもいいならな」

 言い終わった瞬間、金属音が響いた。

「え?」

 それは剣を子供に当てていた男と、リーリスの両方の声だった。
 男の手から剣が消えていた。それはリーリスの頭上を飛び越え反対側に落下している。

「がっ!」

 そして、剣が落下するよりも早く、子供の腕に巻きついた手が離れた。
 捕らえられていた子供は兄弟達の元に駆けて行く。
 先程まで子供を捕らえていた男の腕に丸い陥没した跡が残っていた。
 風切り音が周囲に響いた。
 リーリスはようやく事態を飲み込めたようだ。
 一方、やられた男はまだ事態を把握できていないようで、呆然とマドカのほうを見ていた。
 まだだ、もっとだ。
 マドカは心の中で呟く。
 揺れるなら揺れろ、傾ぐなら傾げ。そんなもの男達への怒りと、リーリスが動くまで何も出来なかった自分への怒りで押し流せ。
 棍の回転の速度が自分でも信じられない位にあがっていく。
 そして、円から無数の弧へと変化した。
 子供を人質にとった男は、まるで同時に数人から殴られたがごとく、身体が左右に何度も振れ、最後はそのまま地面に倒れた。

「くそっ、なんだよ、あれも法術か」
「逃げるぞ。クソがっ」

 背を向ける男達にリーリスは冷酷に言った。

「仲間を見捨てて逃げちゃダメじゃない」

 4度目は3度目よりも遥かに高かった。






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