ダークプリーストLV1 第二章−第01話
一般的に司祭達の朝は早い。
これはアースの光と闇、どちらに属している教会であっても同じであろう。
それなりの期間を経ていくうちに、誰しもが慣れていくのだが。選別の儀式を受けたばかりの新入りは、たいてい先輩司祭から叩き起こされるのが通過儀礼である。
ただ、若干例外がなくもないが。
「リーリスっ、起きてリーリス!」
マドカはリーリスを揺り起そうと試みるが、一向に目覚める気配がない。
女子修道棟宿舎では各司祭達に二人一部屋が割り振られるが、リーリスだけが二人部屋に一人だったのでマドカが割り当てられたのだが。
大変だろうけど、がんばってね。
アネットを始めとした周囲の励ましにマドカは困惑したが、日が経つにつれ嫌でも理解する事になった。
リーリスは凄まじく寝汚かった。それはもう魔術、法術の類でもかけられているのかと思うくらいに。
「ちょっと、朝の祈りに遅れるわよっ!」
クルクルクルクル。毛布を巻き込んで壁際のベッドの端にぴったりと引っ付く。
昨日は毛布ごとベッドから放り出したのだが、それに対する防御姿勢のようだ。
「もう、起きてるんでしょ!」
「……」
「あー、そう。……そういうつもりなんだ」
不吉な沈黙が漂う。
あくまで寝ているはずのリーリスのまぶたがぴくぴく動いている。何をするつもりなのか不安なのだろう。
「アルミス様の教えは、己が感情に従え……」
ぶつぶつと呟くマドカにリーリスの頭が微かに動く。起きるべきか否か迷っているのだ。
だが、室内に風切り音がなり響いた瞬間、リーリスは耐えかねてベッドから飛び出した。
「ほら、やっぱり。起きてるんなら寝たフリしないでよ、リーリス」
「って、その棍はなにっ? その今にもそれを叩きつけようとしているその体勢はなにっ?!」
「ただの脅しよ。ちゃんと起きたでしょ」
「脅しってさらっと言ってるしっ。もしあたしが起きなかったらどうするつもりだったのっ?!」
「その時になれば分かるわ」
笑顔で答えるマドカ。やる、この子は本気でやるつもりだった。
リーリスの背に戦慄が走った。
「ほら、早く着替えて。もう時間ないんだから」
「わ、わかったから、その棍下ろしてよ、もう」
寝巻きから、司祭服に着替えようとしたリーリスは微かに汗のにおいが漂っているのに気がついた。
寝汗ではない、それにマドカのほうから漂ってくる。
すでに彼女は灰色の修道服に着替えている。本来、修道服は司祭達の作業服にあたるが、助祭には司祭の正装が許されていないので、修道服がマドカの普段着となる。
助祭の仕事は重労働も少なくなく多少汗臭くなるのは仕方がないのだが、こまめに洗濯はしているはずだし、こんな朝一から匂うのもおかしい。
なによりも、マドカの頬が上気していた。
まるで、これまで大仕事でもしていたかのように。
「マドカ」
「ん?
「何か、してた?」
「リーリスを起していたけど」
「……」
どうやら答えるつもりはないようだ。
まぁ、いいか。聞いてどうするつもりもない。
本当に朝の祈りに遅れてしまうので、リーリスはいそいそと着替えた。
© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved