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ダークプリーストLV1 第二章−第04話






 なぜ、こんな事になったのだろうか?
 翌日、そう自問しているマドカがいた。
 日は高い、まだ昼の食事休憩が終ったところだ。
 いつもなら助祭の仕事を再開してるのだが。
 服は修道服から稽古着に着替えて中庭に立つ。
 中央に立つマドカを囲むように司祭達がいる。
 灰色の修道服だけじゃない。黒い正装をしている正司祭もいる。
 正司祭って外でのお仕事が多いって聞いたけどいいのかな?
 そんな事を考えていたが、実は少々現実逃避しているだけだ。
 ただ人目につかないよう棒術の鍛錬していただけなのに。
 司教、司祭長と教会のナンバー1、ナンバー2に見られたのが運の尽き。
 まるで見世物だ。
 興味と好奇の視線が突き刺さる。

「それじゃ、始めて下さい」

 こちらの気持ちを知ってか知らずか、アネットが開始を宣言する。
 もうヤケだ。
 マドカは大きく息を吐いて、毎朝そうしているように、アルミスの教えを思い浮かべながら型に入った。

 生まれる感情を受け入れ。

 まず棍を軽く振る。

 与えられた感情を受け止めよ。

 弧を描き。

 己が感情が示すは己が進むべき道。

 円を描き。

 故、己が感情に従え。

 線を描く。

 棍の回転から突きへと移行した瞬間、場が一気に静まり返った。

 そして、線は弧へと帰る。
 弧は再び円へ。

 大気を切り裂く音だけが響く。
 棍の回転を上げていく。

 もっともっと、昂ぶる感情の赴くままに。

 棍はさらに複雑な動きに変化する。
 円から弧さらに逆の弧。
 棍だけではない。足裁きも弧を描き円を描き線を描く。
 身体の位置を変え、棍の回転の支点をずらし、軌道を変化させる。
 演舞はただの型ではない。
 棍さばき、体さばきの集大成だ。
 故に例え演舞の最中に襲われても対応できるように教えられた。
 その為の教えとは、棍も心も揺ぎ無く。
 しかし、今マドカが披露している演舞は違う。
 両手の甲に刻まれたアルミスの紋章。それを通して、心と想いを棍に伝え。棍と肌から伝わる感覚を胸に受け止める。

 拍手が聞こえた。

 その音で初めてマドカは自分が演舞を終えていた事に気付いた。
 拍手をしているのはエスターク。

「マドカ、良い演舞でした」

 アネットも拍手で迎える。
 二人に向かってマドカが一礼した瞬間、周囲から歓声があがった。
 マドカはぎょっとしたが、リーリスが真っ先に抱き付いて来る。

「だめよ、リーリスッ。汗で司祭服が汚れちゃうじゃないっ」
「洗濯すればいーじゃない」
「この後の務めはどうするのっ?!」
「修道服でまわるから大丈夫。よくあること、よくあること」
「……それはあなただけです」

 アネットが言ったが咎める口調ではない。
 マドカがアルミスの教えの求道者なら、リーリスはその体現者そのものだ。
 またリーリスほどではないが、見物していた司祭達の歓声はまだ鳴り止まない。
 肌に染み込むような感情の渦の中、マドカは自分の棒術が受け入れられた事を体感していた。

「はいはい、休憩はここまで。各自戻って戻って」
「はい、戻った、戻ったー」
「リーリスッ! あなたもです」
「は、はーい」

 まだ、名残おしげしながら司祭達は各自の務めへと戻っていった。

「さて」

 アネットはマドカを真っ直ぐ見る。

「これでも、人目を避けて鍛錬を続けます?」

 マドカはゆっくりと首を横に振った。
 元の世界では突き詰めれば突き詰めるほど孤独へ追い込んだ棒術。だが、ここでは違うのだ。

「修道服に着替えて、私も努めに戻ります」
「はい、いってらっしゃい」

 その背を見送りながらアネットは呟いた。

「これで全てが解決とは思わないけど。吹っ切れたかしら」

 エスタークを見やると彼は肩を竦めた。
 本人次第という事だろう。
 しかし、今回の事がさらに別の事態に発展していく事は彼女にも予想外だった。






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