ダークプリーストLV1 第六章−第10話






「ここまでして、無事に済むと思っているのか。エスファの住人達よ」
「……その格好ですごんでも迫力なーい」

 リューイは体力を奪われた状態のうちに頑丈なロープで縛られ、教会に連行された。
 現在は礼拝堂祭壇前に立たされ、司祭達や街の住人に囲まれている。
 光の軍はいまだエスファのすぐ近くに留まっているが、すでに半壊状態でとてもエスファに攻め込めるような状態ではない。
 アネットがリューイの前に立った。

「あなたが光の軍を率いていた。間違いないわね」
「その通りだが。それがどうした、アルミスの司祭よ」
「あなたを生かしたままここまで連れて来たのはエスファの決定を光の側に伝えてもらう為よ」
「メッセンジャーになれと? 面白い。どんな戯言を聞かせてくれるんだ?」
「では、教会の代表たるエスタークの代理として、そしてエスファの住人の代理として、光の軍を率いたリューイに決定事項をお伝えします。
 今後、エスファは光の軍であろうと何人であろうと住民に危害を加えるものは悪と断じて徹底的に排除する事を宣言します」
「なんだと?!」
「また、我々を頼って来たもの。逃げて来たものもこれに準ずるものとし、また引渡しの要求には一切応える事はないものとします」
「それが通るとでも?」
「通します。あなた方が正義を掲げるならそれはそれで結構。我々は我々の正義を掲げて迎え撃ちます。あなたに託すメッセージは我々の覚悟です。
 我々を討ち滅ぼすというのなら、相応の覚悟を。どれほどの対価を払う事になるかは今回身をもって知ったはずです」





 リューイはその後、光の軍に引き渡された。

「ねぇ、司祭長。あの人、ちゃんとメッセンジャーしてくれるとおもいます?」
「さぁ」
「さぁっ、てっ」
「重要なのは我々から攻める事も厭わない。その事が伝わればいいのよ」
「だったら、あんな大げさな言い回ししなくても」
「まぁ、ハッタリも時には必要です」
「司祭長ぉー」

 リーリスが前のめりに倒れそうになる。

「司祭長」
「あら、今度はマドカ?」
「いえ、あの。どういう状況なんでしょうか」

 ここは礼拝堂。
 祭壇には司教が立ち、長椅子には司祭達ほぼ全員。
 そして、その中央にマドカがいる。
 呼び出されたので来てみたら、すでにこんな状態だった。

「とりあえず、司教様のところへ」
「は、はぁ」

 何事かと司教の前に立つと、彼は鎖を持っていた。

「あっ」

 破門を申し出た事をすっかり忘れていた。
 いまさらながらに思い出して冷や汗をかき始める
 だが、エスタークは頭を下げるように手で示す。
 逆らえる訳なく、頭を下げる。
 そして、久しぶりの重みが帰って来た。

「ありがとうございます」

 感無量の気持ちで証を手の平に乗せる。
 が、それが以前のものと違う事に気付いた。

「し、司教様っ! これって!」

 アルミスの紋章に絡みつく蛇。その蛇が白い玉を加えている。
 それは正司祭の証。

「これは司教様と私は勿論、この場にいる司祭一同の異議がない事を確認しています。
 拒否は認めませんよ」

 それはただ白い石が一つはまっただけなのに、ずっしりと重い感じがした。

「より一層精進いたします」

 声が少し震えた。

「それともーひとつ」

 雰囲気をぶち壊すようにリーリスが声を上げる。

「はい、これ」

 それは黒い棍だった。

「はい、てこれはリーリスのじゃ――」

 リーリスのものではなかった。
 中央のネームプレートが埋め込まれている部分には名前はなかった。
 ただ2つの文字が埋め込まれていた。
『無刃』
 それはアースの言葉ではなく、漢字であった。

「こ、これ」
「あなたの半身は壊れてしまったでしょう? それで新しい棍を贈ろうという事になったのだけど」
「名前じゃ芸がないって事で司教様に相談したの。マドカに相応しい言葉はないかって」

 恐らくエスタークはマドカに知識を分け与えた時に、マドカの知識も汲み取っていたのだろう。
 手に取ってみてそれが普通の棍でない事にすぐ気付く。

「今度は折れないように法術で強化されてる上に、法術が通り易くなってる、はず。やったの司教様だから、どんな風にしたのかわかんないけど」

 え? それって。貴重品とかそういうレベル通り過ぎて凄く重たいものでは……。
 マドカは棍を持つ手が微かに震えている気がした。

「マドカ。私達は、いえエスファはもう後戻り出来ません。やり過ごす事ではなく戦う事を選んだ以上、今まで以上にあなたの力を必要とします。力を貸して頂けますか?」
「勿論です。司教様、司祭長」

 エスタークは笑顔で頷くと合図らしきものを送った。
 しばらくすると鐘が鳴った。儀式の鐘だ。

「あんたの為の鐘だよ」

 リーリスがニヤニヤと笑っている。
 という事は何かある?
 だが、それが何かはすぐに分かった。
 礼拝堂の扉越しにも分かる感情の波。
 リーリスが背を押した。
 マドカはゆっくりと扉に近づいて押し開けた。
 教会の門の外に多くの街の人達が群がり、礼拝堂から出てきたマドカを見ていた。
 贈られる思いで胸がいっぱいだった。

「リーリス」
「ん?」
「私、この街が。エスファが大好き」
「あたしもだよ」

 リーリスが後ろから抱きついた。





 後年、エスファは近隣の街や集落と合併を繰り返し、光の側の最大の脅威となり、何度も争う事になる。
 その争いの中で光と闇、ともに歴史に名を残す英雄を生むことになる。
 その中に無言の大司教の両腕として、暴風の紅姫、無刃の闇姫の名もあったが。
 またそれは別の物語である。




第六章(最終章) 完







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