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あおいうた−第二章 白と黒 第07話






「すいませんっ。ここで待っていてもらえますかっ!」

 タクシーの運転手の返事を待たず、後部座席から蒼一は飛び出した。
 ここは白仁と来たコンビニだ。昨日が初めての場所だったが、コンビニの店舗名を覚えていたのが幸いした。
 可能性は低かった。大手コンビニは清潔さを徹底している。他人事なら残っている訳がないと言っていただろう。
 だが、白仁に立ち向かうには武器がいる。良縁のような力でなく、蒼一のバタフライナイフのような凶器でもない。
 一撃で、彼のすべてを剥ぎ取るもの。
 蒼一は生まれて初めて神に祈った。
 己のためではなく良縁を守る為に。

「見付かってくれっ」





「そろそろ気が済んだかな?」

 コンクリートの地面に横たわりながら白仁は笑みをやめない。
 良縁は肩で息をしていた。それも当然の理屈だった。
 良縁は力があるだけで、別に格闘技を身につけている訳ではない。ただ力任せに殴っているだけで、そして白仁は無駄な抵抗はせず拳に押されるがまま身を任せていただけだ。
 例えるならのれんに腕押し。
 それでも良縁の力ならそれなりのダメージになるだろうが、筋力はともかく体格ではそれほど大きく違っていない為、やはりそれなりの耐久力があった。
 そのまま一方的に殴り続ければその耐久力も限界が来たのだろうが、白仁が待ったをかける。

「確認するが、キミは俺に蒼一がレイプされたと、そう言われてきたのかい?」
「何を馬鹿な事いうてるっ。お前が蒼一を――」
「ああ、抱いたさ。否定はしない。だが、それがどうした? あれは合意の上さ。蒼一が否定しない限りね。あいつはお前のものじゃない」
「ふざけとんのかぁっ!! あれが合意の上の状態かっ?!」
「まぁ、裁判でもそう主張するんだね」
「え?」
「キミはまさか、無抵抗の俺にここまでしておいて、何もなしで済ますと思っているのかい? 裁判になればキミはなんて主張するつもりだ? 蒼一を晒し者にでもするかい?」

 白仁は血に塗れながら笑顔だった。
 今なら良縁にも理解出来る。宇賀白仁はバケモノだ。自らの欲望を果たす為なら対象を傷つける事をいとわない。いや、むしろ傷つける事を楽しんでいるようにも感じられる。
 だからこそ、こいつの思惑通りにさせる訳にはいかない。
 だが、良縁には結局、腕力しかない。一介の高校生にしては過分な力だったが、それですら通じない相手がいる。

「あのプライドの高い蒼一が法廷でどんな事を喋るのか楽しみじゃないか?」

 目の前が真っ白になった。
 例え白仁の思う壺であったとしても止まらなかった。自分では。
 引いた拳の上に手が乗せられる。
 どうしてだろう。振り向かなくても誰の手か分かってしまうのは。

「ありがとう、良縁。こんな僕の為に怒ってくれて」
「ありがとう? 違うだろ、蒼一。余計な事をしやがってじゃないのか? 裁判沙汰になって困るのは――」
「僕は困らない。プライドなんてどうでもいい。それで良縁と共に戦えるなら喜んで捨てるさ。それに、これを回収してきた」

 蒼一が半透明の手下げ付きビニール袋を突き出す。中に紙コップらしきものが入っている。

「運が良かった。うまく排水溝に落ちてたおかげで店員に捨てられずに済んだ。それに中身も少し残ってる」

 白仁の表情が目に見えて変わった。
 良縁の拳を笑って耐えていたその顔に笑みが消えた。

「ハ、ハッタリだろう? 蒼一」
「好きにとればいいさ。裁判? すればいいさ。あんな短時間で人を昏倒させるなんて睡眠薬のたぐいじゃないだろ? あの後の僕の状態を考えたら、とても合法的なものじゃない」
「………………」
「もう一度警告しておく。良縁に累が及ぶくらいなら、僕は喜んで晒し者にでも何にでもなってやる。だが、覚悟しろ。このカップの中身、成分の分析次第では。白仁、お前は牢屋の中だ。左遷どころじゃなくなるな」

 白仁はしばらく蒼一を見つめていたが、やがて頭が落ちた。
 蒼一が良縁の腕を引く。

「行くぞ」
「いや、ほっといてええんですか? あれ?」
「その為の武器だ」

 良縁にビニール袋に入ったコップを見せる。

「白仁は負ける喧嘩はしないよ。キミから僕を奪い取れると思ったから仕掛けた。これはそんな白仁の足元をひっくり返せる急所だったんだ。……ごめん、本当ならまっさきに駆けつけたかったけど」
「謝んないで下さい。俺、むっちゃかっこ悪いですやん。一人意気込んで特攻して結局は蒼一に助けられたって事ですやろ」
「キミにはとっくに助けられていたさ。昨晩、良縁が追ってきてくれなかったら、本当に命を絶っていたかもしれないから」
「冗談でもやめてや。もう蒼一のいない世界なんて考えられないのに」

 蒼一は先回りして良縁の前を立つ。

「僕はだいぶ前からそうだった。良縁、キミがいるからこの世界で生きていける」

 蒼一の手が良縁の首に回された。ここは車道。人目もある。
 だが、かまわず蒼一に応えて口付けを交わした。
 二人ならば怖くないから。

 I Love You.


 第二章(最終章) 完






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