過ぎた願い−02page






 全ては幻だったのか?
 遠い先の時間から今を振り返るからそう思うのかも知れない。
 始まりはあまりに唐突だった。

『こ、ここここ…』
『こ?』
『こ、恋人として、つっ、つき合って下さいぃっ!!』
『…はい?』

 突然の告白。
 加えて見知らぬ女の子。(それもかなりかわいい)
 陸上一筋に生きてきた英二にとって始めての異性からの告白で、それはまさしく天変地異にも等しい出来事だった。
 だから、

  『何の冗談?』

 と言ってしまった所で誰が責められようか。
 その後、泣かれた上にひっぱたかれたが。

(あんとき、もの凄く痛かったんだよなぁ)

 思い返しながら、急な坂道を先行く彼女に声をかける。

「お〜い、彩樹。俺をおいていくな〜」

 声に反応して彼女は振り返って、元気良く手を振る。
 走り慣れてる英二でも怠く感じているのに逞しい事である。

「は〜や〜くぅぅ」

 元気がありあまって、立ち止まったその場でピョンピョン飛び跳ねている。
 見てるこっちが疲れそうだ。
 仕方ない。
 苦笑して英二は少しペースを上げた。

「ほらほら、もっと早く。陸上界のホープでしょ」
「俺は平地が専門なんだ」

 ぼやきつつ彼女においついた英二の視界の端を何かがかすめた。

「わぁ…」

 見上げて彩樹が小さく溜息をつく。
 春風に巻かれて淡い色彩がちらちらとかすめていく。
 それは桜の花びら。
 この坂を上りきった先の丘に並び立つ桜の木々の贈り物。

「早いもんだな。あれから一年か」

 悪戯な子猫のようにはしゃぎまわる彼女を見ながら呟いた。

「え? な〜に?」

 独り言を聞きとがめ振り返った彩樹に、地獄耳めと苦笑しながら返した。

「いや、もう少し先だったよな」
「ん?」
「あの時の場所」

 一瞬、何の事か分からなかったのか彩樹はキョトンと首を傾げたが、すぐにボッと赤面する。

「あんときはびっくりしたなぁ。なんせ今まで生きてきて女の子から告白なんて…」
「わぁぁぁぁぁ、やめやめ」
「どうしてだ? 事実だろ?」

 さっきまでの態度とうって変わって顔を伏せたままぎゅっと英二の袖にしがみつく。

「彩樹?」
「だ、だって…」
「…?」

 彩樹はおずおずと顔を上げた。
 顔をさらに真っ赤にさせて、半分涙目になってる。

「だって…恥ずかしい…もん」
「………」

(か、かわいすぎるっ!)

 思わず抱きしめたい衝動にかられたが、人気がないとはいえ一応公道だったので、理性を総動員してなんとか堪える。

「ほ、ほら。早くいこっ」

 ぎくしゃくした動きで先に行こうとする。
 ごまかそうとしているのがバレバレだった。

「こら、ちゃんと前見て歩けよ。転ぶぞ」

 苦笑しながら、英二は小走りで追いかけていった。






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