過ぎた願い−10page






 数秒の間があいた。
 英二は次に何を言うべきか迷った。
 そして出た言葉はかつて彩樹に言ったものと同じだった。

「何の冗談?」
「あいにく冗談でも嘘でもないよ」

 英二は溜息をついた。
 たぶん、こいつはどこかおかしいのだ。
 そう思うことにした。
 そんな英二の心を見透かしたように少年の方も溜息をつく。

「だったら、聞いてみたら」
「誰に?」
「本人に」

 言われて反射的に腕の中の彩樹を見る。

「…さい…じゅ?」
 彼女は真っ青な顔を上げ…まるで英二の視線を避けるように目をそ
らした。

「ごめん…なさい」
「さ、彩樹? なんだよ、何あやまってるんだよ」

 ぎゅっと首にしがみついてしきりに謝る彼女に呆然となる。

「そのままじゃ話が進まないね」
「………」
「でも、このままだとロクな事にならないよ。ボクにとってもキミ達にとっても」
「俺達…にとっても?」

 少年はうながすように彩樹を見た。
 だが、彩樹は無言のままだ。ただ英二にしがみつくばかり。

「キミに話すつもりがないなら…ボクから話すけど良い?」

 少年の方はその無言を肯定だと勝手に解釈する事にしたようだ。
 突きつけたままだった刃を鞘に戻して語りだした。

「彼女の体はね。かりそめのとても不安定なものなんだ」






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