カミキリバサミ−6page
「やっぱこれだよな」
自宅に帰った誠は自分の部屋の片隅に置きっぱなしにしてあった木刀を構える。
特に剣道の心得などないので一際ずしりと重く感じる。
中学の修学旅行時にネタのつもりで買ったが、まさか実用する日が来るとは夢にも思っていなかった。
カミキリバサミとやらが人間ではないというのは信じがたいが、少なくとも一目で分かるほどというからには、それなりの体格をしているのだろう。
腕っ節に自信がない訳ではないが、同時に身の程も良く知っている。
準備があるにこしたことはないだろう。
しかし、このまま持ち歩くのも問題だ。
犯人を見つける前に警察に捕まるのがオチだ。
部屋の中を探したが、役に立ちそうなものが見つからない。
家の中に何か包むものはないかと、木刀をもって部屋を出た。
と、千里とぶつかりそうになる。
「お、いい感じじゃねーか」
最小限に切りそろえた感じだが、夏らしく涼しげに感じる。
「案外、こっちのほうが似合ってるんじゃないか」
「…お兄ちゃん。それなに?」
千里は木刀を指差している。
「中学の修学旅行の時、買った奴だよ」
「それは知ってるよ。それをどうするつもりか聞いてるのっ」
「聞くまでもないだろ」
「ちょっと、私そんな事望んでないよっ。犯人捕まえたって髪が戻る訳じゃないし」
「お前は何人目だって言われたんだ?」
「え?」
「13人目の犠牲者が出た時点で呪われるんだろ?」
「え? なんで知ってるの?」
「他にも犠牲者がいて色々聞いてきた。そのコは残り11人らしい。お前は? 言われたんだろ?」
「…8人」
「昨日、あんだけ騒いでたんだ。本当は怖いんだろ」
「そ、そんなことないっ!」
誠は木刀を持ってない方の手で千里の頭を引き寄せた。
「呪いって何かわかってねぇんだろ? 余計怖いよな?」
「そ、そんな事…」
「でも、心配すんな。そんなもん、俺がぶっとばしてやるから」
「だめだって! あれは──」
「化け物だろうが、妖怪だろうが知ったこっちゃねぇ。俺は兄としては最低だが、それでも大事な妹を泣かせたんだ。何様だろうがぶっとばすだけだ」
千里の頭を軽く叩くと誠は階段を降りていった。
「──じゃない」
千里はもう消えた背中に向かって言った。
「最低なんかじゃないよ。お兄ちゃん」
© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved