消える教室−6page






 それは見たものは10人中10人が同じ名称を思い浮かべるだろう。

「ドラゴン、竜の形をとらせているのか。とことん、古風というかオーソドックスなんだね」
「五条先生…」

 赤い鱗に包まれた羽を持つトカゲ。その背に乗っているのは間違いなく、美晴の担任である五条だった。

「何者、あなた。術者のようだけど、何故私の邪魔をするっ!」
「あいにく、術者なんて名乗れるほど極めてないよ。せいぜいかじった程度さ。邪魔をする理由は語浄の名を汚したやっかいものに相応しい最後を。君の実家である語浄家からの依頼だ」
「ふざけるな。ただ、世に出ることもなく腐っていく連中に踊らされたかっ!」

 その五条の表情は、いままで美晴が見た事もない怒りに醜く歪んでいた。

「術者なんてのがほいほい世に出て来るもんじゃないんだよ。平安時代じゃあるまいし。しかも、自分の手に負えないからって生贄でなんとか手なずけてる怨霊をさも自分の実力だと勘違いしてさ」
「死にたいようね、坊や」
「あいにくやる事がまだまだ山積みなんだ」

 少年は背中にしょっていた布包みを取り払った。
 それは一振りの刀だった。
 鞘から抜き払うと刀身は真っ黒だった。

「すぐ終らせるから目瞑ってて」

 少年は美晴を振り返って言った。

「お、お前。その刀はっ。ま、まさか」
「よくあるものだから人違いじゃないか?」

 その言葉の後に、轟音、悲鳴等が聞こえたが、目を瞑ったままの美晴には何が起こっているか分からなかった。






 放課後を告げるチャイムが鳴った。

「最近の天気予報は当てにならねぇな」

 まったくよね。
 男子の言葉に美晴と心で同意する。
 念の為に小型の折り畳み傘をカバンに入れていたが、小さいのでカバンや肩がぬれるのだ。
 教室に残っている大半が雨がやむか小振りになるのを祈って残っているだけだ。
 あれから、もう一ヶ月か。
 結局、あの少年は何者だったのか、五条先生が何がしたかったのか謎のままだった。
 あの翌日、12組は消えて、美晴は11組の生徒となっていた。
 他のあの日すぐ帰った生徒は、何の違和感も感じずにそれぞれあてがわれたクラスになじんでいる。

「ひーまー、何か面白い事ない?」
「あーそー言えばさー噂で聞いたんだけど、となりの空き教室に幽霊が」
「やめてっ!!」

 思わず立ち上がって叫んでいた。
 手が震えている。
 心臓が早鐘を打つ。

 ダメだ、思い出してしまう。あの日の悪夢を。

 女子が小声で囁きあう。

「ちょっと、美晴ちゃん。どうしたの?」
「あ、彼女。怪談とかそういったものが全然だめらしいよ」
「それにしたって反応が極端すぎない?」

 美晴はカバンから折り畳み傘を取り出して

「私、帰るね」

 早足に教室を出た。

 もうゴメンだ。

 噂なんて二度とゴメンだ。




消える教室 完






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