夢売りのミン 第六章 夢売りの歪みが復讐者を生んだ。−第04話






 金属が叩きつけられる音に、目を向ければイヌカイの刀を、四葉の錫杖でかろうじて受け止めているジンの姿があった。
 そして、数名の血印者が声なく地に伏せた。

「なっ?!」
「カクならばいざしらず、ただの血印者を集めただけで勝負になるとおもったか?」
「まったくです」
「!!」

 声は二人のものではなかった。
 イヌカイは一息で、ミンの手前に戻る。
 声の主はある家の屋根にたっていた。
 少年と呼んでいい年頃の男性がそこにいた。

「レン、なぜここに?!」

 レン?

 彼の左目は銀色ではなかった。
 しかし、ミン自身の左目が驚愕すべき事実を伝えた。

「インターフェースを起動している? 血印者が?!」
「おっと、閉じるのをわすれていました」

 おどけたようすで、レンは舌をだした。

「レン、なぜここにいるっ」

 ジンが再び問うた。

「なぜもなにも。あなたが一番よくご存知では? ジン殿。このお二方は時期が来るまで放置する。それがカク様の指示であったはず」
「私を監視していたのか、貴様」
「少し違いますね。僕が監視していたのはこっちのお二方です。あなたがカク様の決定に不満をもっていたのは分かっていましたので念の為に。もっともお二方の方には気付かれていたようですが……。懸念が当たってしまい残念です」

 ジンは錫杖の尻で地面を叩き、苛立たしさを表現するように金属音を鳴らす。

「こやつらはカク殿の行った事を台無しにしているのだぞっ」

 レンの言葉はしかし冷たく響いた。

「それらも含めた上での放置の決定です。ジン殿、あなたはカク様の決定に従えぬと?」
「血印者ごときが大きな口を」

 レンは肩をすくめ嘆息した。

「残念です。自らの過ちを認め素直に撤収して下さるのなら、カク様には伏せておくつもりだったのですが」

 レンが腰の後ろにさしていた短刀を抜いた。

「あ……」

 ジンの空白の表情。それは恐れだったのか。後悔だったのか。
 レンが刃を宙で一閃させると、ジンの首が地面に落ち、そして遅れて体が地に伏した。

「ジ、ジン様っ」

 残ったジンの血印者がなりゆきに戸惑う中、レンは屋根から飛び降りる。
 そして、一番近くの血印者達に言った。

「片付けて」
「え? は? え?」
「だから、殺されちゃった人とか、首はねちゃった人とか片付けて。村の人が起きたらびっくりするでしょ」
「え、でも、俺達はどうなるのですか?」
「心配しなくても、他のはぐれの人なり、はぐれ候補の人なり紹介するよ。カク様は従順な人には寛容だよ?」

 覗き込むようにそう言われた血印者は慌てて、首をはねられたジンの身体を布で血止めして担ぎ上げる。他の血印者達もイヌカイが斬った者達をかつぎあげ、去っていく。
 それを見届けてからレンは二人に向き直る。

「どうも、先走った者が失礼をしてしまったようで。カク様にかわってお詫び申し上げます」
「お前が、カクの血印者か?」
「まぁ、数いるうちの一人ですね」

 イヌカイは刀を構える。

「そいつらはお前のように飛斬とか使えるわけか?」
「それはさすがに僕だけですね。それとおっかないものは腰に納めてもらえますか? 今ここであなた方と争うつもりはまったくありませんので」
「それはカクの決定だからか?」
「その通りです」

 イヌカイはため息をついて刀を鞘に納めた。

「ありがとうございます。助かります。それに引き換えジン殿ときたら……」

 レンは再び嘆息する。

「仲間だったのだろ?」
「あくまでカク様に従っていただくのが条件です。十二分に承知の上のはずだったのですが」
「まぁいい。用がないなら去ってくれ。俺達は村人を起こさなきゃならないからな」
「はい、承知しました」

 レンは二人に一礼をして、家の屋根まで一気に跳躍し、屋根から屋根へと飛び移りながら去っていく。

「カク以外にもとんでもないのがいやがるな。……ミン?」

 困りましたね。なんだかわかりませんがとんでもなく困りました。

 ミンは起きた一連の出来事についていけず、呆けた表情をするしかなかった。






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