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鉄仮面魔法少女まりん−17page







「出席率が見事に半分…。あー、喜べ諸君。学級閉鎖の条件は軽くクリ
アしてるな」

 体調不良で休みの担任に変わって、タコちゃんの愛称で微妙に恐れられているスキンヘッドの教師が宣言した。
 まるで打ち合わせをしていたかのようにクラス中が一斉にぐっと親指を立てる。

「オッホン。ちなみに休みの間は課題が出るからなぁ」

 まるで栄養不足の苗のように一斉にぱたっと伏せる親指達。
 一糸乱れぬ見事なパフォーマンスである。

「この分だと他のクラスもやばそうだな」
「タコ先生っ、質問っ」
「あー、そこの茶髪ロンゲ。キミは舐めた事を言ってると恥ずかしい格好で大通りを歩かせるぞ? ん? いっぺん女装でもしてみるか?」
「すでに昨日、罰ゲームで女子の制服来てナンパしてきましたぁ」
「…補導された場合、官憲にどんな拷問をうけても、取調室でカツ丼奢られても、学校名だけは絶対に口を割らないように。で、質問はなんだ?」
「もう帰っていいんですか?」
「そんな訳なーいだろ。とりあえず一度職員室に戻って報告して来るから。というか、下手すりゃ学年閉鎖だな」

 隣のクラスからも歓声が聞こえてくる。
 教師がなんだかなぁといった表情で頬をかく。

「と・に・か・く。追って沙汰するから君達は期待に胸膨らませて待つように」

 一差し指をチッチッチッと横に振るが、やはり火星人のボディランゲージでしかない。
 教師が出ていくと教室にざわめきが戻ってくる。

「学級閉鎖…かぁ」
「嬉しくないのか? 真鈴」
「あんたは? 篠原」
「オレは親父が倒れてるからなぁ。喜ぶのは抵抗あるよ」
「あたしも似たようなもんよ」

 マリンが治したとはいえ、病欠多数で学級閉鎖と聞かされてはあの時の想いを思い出しそうでイヤだった。
 何より、この学級閉鎖を引き起こした原因を真鈴は知っているのだ。
 気分が浮くはずがない。
 ふと、香厘がずっと机にへばりついたままなのに気付いて、冷や汗をかく。

「…起こすの忘れてた」
「大丈夫じゃないか? 出席はちゃんと返事してたし」
「ほんとに昨日なにしてたんだろ? 居眠りするような子じゃないんだけど。おーい、香厘ぃ」

 ゆさゆさと肩を揺らす。
 けだるそうに香厘が顔を上げて…糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

「…え?」

 倒れ掛かってきた体を支えきれずに尻餅をつくが、何が起こったのか真鈴には判断出来ない。

「…香厘?」

 返事はない。
 腕の中の彼女の顔を良くみると額を初めいたるところに汗が噴き出し、べっとりと髪が張りついている。

「冗談…だよね? おーい、香厘ぃ」

 恐る恐る額に手を当てる。
 手が震えた。正確な熱は判断がつかなかったが尋常な体温でない事だけは理解出来た。

「うそ…。…香厘、ちょっと香厘ぃ…、香厘ぃっ!!」

 弾かれたように篠原が叫んだ。

「誰か、先生呼んで来いっ!!」

 騒然となる教室。
 女子は遠巻きに覗き込み、男子のうちで行動派の何人かは篠原の声に応えて廊下に飛び出す。

「保健室の先生でいいのかっ」
「もう誰でもいいだろっ、とにかく誰か呼んで来いっ」
「ちょっと、救急車呼んだ方が良くないっ!?」
「まず先生呼んで来いっって! 俺らだけで騒いでてもしょうがないだろがっ」
「タコっちの奴、もうちょっとここでねばってろってのっ」

 嵐のようなざわめきの中、脅えたように震えながら香厘を抱きしめる真鈴。
 ふいに香厘のあごが微かにだがあがった。

「…だめ」
「こ、香厘っ! 気付いたの!?」
「だめ、…先生呼んじゃだめ」
「何いってんのよっ! あんたこんな熱でっ」
「…せっかく、授業なくなったのに。がんばって学校来たのに」
「香厘、ちょっと香厘っ!! しっかりしてっ」
「だめなの。…私まで倒れたら」

 うわ言のようにだめを繰り返す。
 まるで真鈴が見えていないように。

「落ち着け、真鈴っ」
「だってっ」
「いいからっ。お前まで取り乱してどうするんだよっ。こんな時に」

 篠原に頬を両手で押さえられ、無理矢理目を合わせられて叩きつけるように言われてようやく腕の震えが止まる。
 廊下の外で慌ただしい足音が複数聞こえてくる。
 呼びに行った生徒が帰ってきたのだろう。

「香厘ぃ」

 ぎゅっと荒い息の彼女を抱きしめて、うめくように真鈴は名を呼んだ。





 ゴーンッ、ゴーンッ

 お寺の鐘を突いたような一風変わった呼び鈴が響く。
 洋風な作りの玄関にちょっとあわない木製の表札には江武原と書かれていた。
 香厘が学校で倒れ救急車で運ばれたのが昨日。症状は見かけよりは軽かったため入院はなかったと聞いている。

「おや、真鈴ちゃん。お久しぶり」

 ドアを開けて出てきたのは大柄な体格の男だった。エプロンをつけているが致命的に似合っていない。
 どちらかというと防弾チョッキの方が似合いそうだ。

「お久しぶりです」
「香厘のお見舞いかな?」
「あ、はい」

 恐縮して頭を下げる。
 男は香厘の父親だ。たまにこの家に遊びに来るときは仕事でいないので顔を会わす事は滅多にない。

「今日はお仕事は休みですか?」
「うん。最近、怪獣とか悪の秘密結社もなりを潜めちゃったから暇で暇で…」
「…前から思ってたんだけど、おじさんの職業っていったいなんですか?」
「香厘から聞いてないかい?」
「地球の平和を守る正義のヒーローって言ってましたけど」
「…まぁ、似たようなもんだよ」

 明後日の方角をみながらはっはっはと笑う香厘の父親。
 こんな怪しい正義のヒーローは嫌だと思ったが、今はそれどころじゃない。

「あ、あの…」
「ああ、済まない。お見舞いだったね? さぁ、入って入って」

 ドアを大きく開けて真鈴を迎え入れる。
 おじゃましますと香厘の父の後について家へと入っていった。

「香厘は自分の部屋で寝ているから。さっき、見たら起きてたけどもし眠っていたらそのままにしておいてくれるかい」
「分かりました」
「じゃ、私はちょっと食事の用意をしてるから」

 そう言って香厘の父は奥へと消えていった。何故かその手には飯盒が握られていたが。
 何を作る気なのだろうかと気になったが、怖い答えが返って来たら嫌だったのでさっさと香厘の部屋を向かう。

『開ける前にハイ、ノック by こうり』

 そう書かれたプレートが張ってあるドアが香厘の部屋だ。
 ちなみにこのプレートは真鈴の記憶では中学に入った頃から貼ってある。
 恐らくは何度か父親にノック無しでドアを開けられたんだろう。
 真鈴の場合は問答無用で物(たいがいは枕、たまに時計)を投げるので緊急事態でも無い限り父親がノックを忘れる事はない。

 コンッコンッ

「入るよ」
「…え? 真鈴?」

 部屋の中から当惑した声が返ってくる。
 ドアを開けて中に入る。ベッドには青白い顔をした香厘が辛そうに上半身を起こそうとしている。

「いいから、そのままで寝てて」

 慌てて香厘を制して、ベッド脇でイスをたぐり寄せて座る。
 香厘はベッドに横になったまま真鈴の方へ顔を向けるが、熱のせいかどこか目の焦点があっていない。

「辛そうだね」
「うん…、正直ここまで酷いとは思わなかったわ」
「薬とかは飲んでるの?」
「一応。あまり効果はないみたいだけど」
「大変だね」
「大変なのは父さんね。結局、仕事休ませちゃった」
「あ、そうなんだ。あれ? そう言えばおばさんは?」

 香厘の母親は専業主婦なので、香厘の看病は出来るはずだ。わざわざ父親が仕事を休む必要はない。

「母さんが先にやられちゃったのよ」
「え、うそっ」
「私より症状がひどくて、いま入院してるの」

 浅く息を吐き目を閉じて、枕に頭を押しつける香厘。そして投げやりに呟く。

「私まで倒れてる場合じゃないのに」

 ようやく真鈴は、昨日の香厘の様子に合点がいった。彼女は父親にこれ以上の心配をかけたくなかったのだ。

「じゃぁ…さ。早く元気にならないと」
「うん、そうね」

 無理に笑って、でも無理してる事があまりにも分り過ぎてとても痛かった。

『別に他人がどうなろうと知ったこっちゃないわよ』

 ああ、そんな事言ったっけ。と、ふいに思い出す数日前に言った言葉。
 どこか他人事に思える。

「他のみんなもこんな感じなのかしらね」
「休んだ人の事?」
「うん」
「さぁね…、あたしは香厘のところしか来てないし」
「そっか…、みんな大変…よね」
「人の事を心配してる場合じゃないって」

 くすっと弱々しく香厘は笑った。

「そうね。みんなに心配かけるから…、早く治さなきゃ…ね」






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