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鉄仮面魔法少女まりん−16page






「ここでいい?」
「はい」

 駅前の古びたベンチにマリンを置いた。
 ここは元はバス停だったのだが、少し先にバス停が移動してしまってベンチだけがそのまま残されている。

「ねぇ、ここにあいつが来てたよね。見つかる心配はないの?」
「たぶん大丈夫だと思います。見つからないように目くらましをかけていますので」
「そう」

 二人はそのまま沈黙した。
 重い々々沈黙だった。
 時折、背後を通り過ぎていく人々が怪訝な表情で首を傾げている。
 何をしているのだろうと思ったのだろう。

「真鈴さん」
「なに?」
「お元気で。ご迷惑をおかけして申し訳有りませんでした」

 それは別れの言葉だった。
 真鈴は何かを言おうとして、言葉を詰まらせて。結局は喉まで出かかったものを言葉に出来ずただ同じように別れの言葉を返すだけだった。

「じゃぁね」

 それっきり。
 何も言わず、マリンから背を向けた。
 なんでもないかのような足取りでその場を去る。
 だが、もうどんなに目を凝らしてもベンチが見えない距離になると堪らず走りだしていた。
 ずっしりと重く々々胸の内に絡みつく太い鎖のようなその感情は決して消えない。
 息を切らして歩道を駆けて、体力が尽きてへとへとになりながら歩いて、そして再び胸の内の重さを振り払うかのように走る。
 家に辿り着いた時には脚は半ば痙攣して、意識は薄れかかっていた。
 静かに玄関を上がり、二階に昇って父親が安らかな吐息を立てているのを確認する。それから、汗でべとべとになった服を着替えベッドに潜り込む。
 眠くもないのにぎゅっと目をつぶって、それっきり何も考えないように努力する。
 何もない虚無を思い浮かべてはたった数日のマリンのとの会話が浮かび、また虚無で塗りつぶす。たったそれだけで一日をつぶしていった。





 朝、目が覚めるといつもより30分遅かった。

「ギニャー!!! 寝過ごしたぁっ!!」

 宇宙刑事もビックリな速さで着替えてキッチンへ飛び出す。

「ま、真鈴っ。なんて格好してるんだっ」
「…父さん?」

 キッチンでは父親が朝食をとっていた。
 テーブルには真鈴の分もすでにある。

「体…大丈夫なの?」
「あ、ああ。大丈夫だからっ。早くっ」
「…何が?」
「何がじゃないっ。スカートをはきなさいっ!」
「ふぇ?」

 自分の体を見下ろす。
 言われた通り、一部のマニアが喜びそうな姿だった。
 宇宙刑事も(別な意味で)ビックリ。

「ギニャーッ!!!!!!!」

 高速で部屋へとUターンする。
 戻ってきた時には顔は真っ赤で涙目になっていた。

「はやく言ってようぅ…」
「だから、言ったよ」

 はぅ、とため息をついて席に着く。
 寝坊したものの、すでに食事の準備がされているなら多少の余裕はある。

「もう、大丈夫なんだ?」
「ああ、薬が効いたのかな? 病み上がりだとは思えないほど好調だよ」

 確かに顔色がかなり良い。
 一瞬、真鈴の表情に影がさしたのを父親は見逃さない。

「どうした?」
「ううん。なんでもない」

 それから思い出したように付け加える。

「もう、こんなのはごめんだからね。心配したんだからさ」
「あはははっ。悪い々々、ちゃんと気をつけるよ。いや、いままでも気をつけてたつもりだったんだけどな」
「たくもぅ」
「ん? もう、こんな時間か」

 時計を見て父親は立ち上がって上着を羽織った。

「じゃぁ、行って来るよ」
「はーい。気をつけてね。って、その前にちょっと待って」
「ん? なんだい?」

 怪訝そうにかがんで真鈴に顔を寄せる父。
 チュッ

「?!!!☆」
「はい、おまじない」

 目を白黒させる父親と多少頬を赤くして明後日の方へ視線を泳がせる娘。
 いつもよりも、ちょっぴり暖かみのある朝だった。





 登校し教室に入ると、どことなく嫌な気分になった。
 数えるまでもなくやけに人が少ない。
 なぜなのかは予想はついた。

「真鈴はやっぱり無事かぁ」
「あ、篠原。これって、やっぱり病欠?」
「ん? あー、そうみたいだな。本当に流行ってるんだなぁ、あれ」
「…うん。ウチも父さんがかかった」
「え? そうなのか? そっか、真鈴も俺んことみたいに…」

 言われて、篠原の父親も倒れていた事を思い出す。

(そっか、こいつもあんな想いをしてるんだ…)

 そんな風に思う。
 ふと、自分の言った言葉が思い返される。

『なんで見も知らない誰かの為にそんな訳わかんない事しなきゃなんないの』

 ああ、そうだ。
 自分が苦しむ必要なんてないんだ。自分がそれをやる理由はないのだから。

「ねぇ、香厘は?」

 嫌な方向へ流れそうだった思考を振り払うように、真鈴は訪ねた。

「まだ、来てないはずだけど」
「え? うそ」
「ほんとだよ。て言うか、嘘つく意味がないだろ」
「うーん。てっきり来る途中で会わなかったから先に教室にいるってばかり思ってたから」
「まぁ、お前等がバラバラで来る時は江武原の方が早く来るからな。て、噂をすれば」

 言われて黒板横の戸口付近を見れば、香厘が教室に入ってきたところだった。

「香厘、遅かったじゃない」
「うん、今日はちょっと寝過ごしちゃって」
「あはは。ゲームのし過ぎなんじゃないの?」
「かもね」

 ふと、篠原が眉をひそめる。

「おい、江武原。お前大丈夫か?」
「え? 何が?」
「顔色があんまり良くないぞ」
「寝不足だからよ」
「んー、ならいいけど」

 首を捻りながらも納得する。

「最近、たちの悪い風邪が流行ってるから夜更かしもほどほどにしとけよ」
「そーだよ。宿題終わったらちゃっちゃと寝てしまうべき……って、あぁぁぁっっ!!」
「わ、なんだよっ。驚かすな」

 呆然とした表情の真鈴。
 呟くように。

「全教科丸写しの事。すっかり忘れてた」
「脅かすなよ。そんなもの真鈴一人が死ねば済む話じゃないか」
「お前が死ねぇっ!」

 華麗な回転回し蹴りが炸裂。

「真鈴はいつも元気ね」
「なんか、本当に元気なさそうだけど、大丈夫?」
「うん…、ちょっとだるいだけだから」
「あ、あの日とか?」
「貴様は甦ってまでくだらない事を言うなぁっ」

 ガスッガスッガスッと止めのストンピング連打。

「篠原君」

 …へんじがない。
 ただのしかばねのようだ。

「まだまだ先。先週にきたばっかりだし」
「お前も答えるなぁっ!!」
「いいじゃない、別に減るもんじゃないんだし」
「少しは恥じらいを持てっていってんのっ!!」

 机にうつ伏せになりつつ、香厘はちろっと横目で真鈴を見て

「立派になったわね、真鈴。パンツ一枚で外を走り回ったあの真鈴が私に恥じらいって言うなんて」
「幼稚園時代の事を持ちだすなぁっ!」

 さりげなくクラス中の男子が聞き耳を立てているのに気付いて、真っ赤になって両手をばたつかせて香厘を止める。

「じゃぁ、小学校の時の」
「ゴメンナサイ、モウイイマセン、ゴメンナサイ、モウイイマセン…」

 痛い過去を多々持つ身としては敗北するしかない。
 恐るべしは幼なじみ。
 異性の場合は回りから羨まれることも多々有るが、同性の場合は脅威でしかない。
 毎朝起こしにきてくれてムフフなどという甘い展開は、遥かなイスカンダルより遠い。

「じゃぁ、ちょっと寝るから先生が来たら起こしてちょうだい」
「はいはい、おやすみ」

 こっちもぐったりしつつ机に張り付いた香厘にぱたぱたと手を振った。
 それからふとある事に気付いて教室を改めて見渡す。

「いー、ある、さん、すー、うー」
「なんで中国語で数えるんだ」
「まだ生きてたの」
「…そのうち本気で死ぬかもな」

 ずりずりと体を引きずりつつ、篠原が足元に寄ってくる。

「それは置いといて。たぶん、数えるまでもないぜ」
「やっぱり?」
「何人かは仲の良い奴が携帯で確認とってたし。それ以外の奴が何人か単に遅れてるだけだとしても…」






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