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鉄仮面魔法少女まりん−19page






 彼女はずっと待っていた。
 誰かをではなく、何かをでもない。
 ただ、待つが為だけに待っていた。
 何故ならもう彼女に出来ることはないのだから。

「あーあ、やっぱりまだヨリシロは見つかってないんだね」

 来るはずのない人。
 聞けるはずのない声。
 二度と見る事のないはずだった姿。

「どうし…て」
「ん? 気が変わったの。…戦うよ、もう一度」

 時刻はすでに夕方。
 赤い夕日を背に来るはずのなかった人がそこにいる。
 困ったようなはにかんだ笑顔を浮かべて、躊躇いもなく彼女へと伸びる腕。

「とりあえず、ここで話しなんかして誰かに見られたら変に思われるから。場所かえるよ」

 バス停跡のベンチに置かれた鉄仮面。
 赤い陽光に染まったそれは静かに応える。

「だめです」

 彼女に触れる寸前でぴたっと止まる腕。

「…ひょっとして怒ってる?」
「いいえ、そうじゃないんです。…もうだめなんです」

 真鈴は怪訝そうに眉を潜めた。

「…もう?」
「もう私は奴には勝てないでしょう」
「何言ってんの。途中までは優勢だったじゃない。今度はあたしも腹を括ったから大丈夫だよ」
「もしも…あの時と同じ条件なら…そうです」
「何が違うってのよ」
「私の力です」
「どういう事?」
「あの時の私と、今の私では魔法力に倍以上の開きがあります」
「な、なんでっ!?」
「あの場から脱するには普通の魔法では無理でした。疑似空間から抜け出すには魔法を超えた魔法の力が必要なんです。あの時使ったのはその為の魔法。だけど、それは魔法という力を否定するものでもあるんです。…だから、使えるのは一度きり。使えば多くの力を失ってしまう」

 それ故に『保険』。
 だから、ぎりぎりまで迷ってしまった。使えばもう戦えなくなるから。
 だけど、本当に大切なものはそれ以前に失っているのだと彼女は知っていた。

「それに私にはあなたの力を借りる資格なんてないんです」
「何の事?」
「私はあなたに嘘をつきました」
「逃げる時に使った魔法の事を言ってるんだったら…」
「気付いていたんです」
「…え?」
「あれが罠だという事を。あの時、私はあなたに戦わせる為に後をつけさせたんです。そうすれば戦わざるをえない状況になると思って。そして予想通りにそうなって…自分の力を過信してあなたを危険な目にあわせてしまった。私にはあなたの力を借りる資格はありません」
「…もういいよ、その事は。過ぎた事だよ」

 真鈴の手が彼女に触れる。

「もういいから。あんたはただ使命を果たしたかったんでしょ? 魔物から私達、人間を守る為に」
「…違います」

 思いも掛けぬ言葉。
 目を丸くして彼女の言葉を待っている。

「嘘は初めからあったんですよ。覚えてますか? どうして魔物がこの世界に現れたのか」
「確か…”絶対者”って人に嫉妬した魔術師が呼び寄せたんでしょ?」
「その魔術師にはね、弟子がいたんですよ。真鈴さん」
「弟子?」
「はい、師匠である魔術師自身は魔物に食われてしまいましたが、弟子達はかろうじて逃げ延びたんです。だけど、すぐに他の魔術師達に捕らえられました」
「どうして? その弟子の人達は何もしてないんでしょ?」
「魔術師にとって、師の罪は弟子の、弟子の罪は師の罪なんです。食われてしまった師の贖罪は弟子に課せられたんです」
「なんか酷い話だね。でも、それがどうしたの?」
「弟子達はあらゆるものを剥ぎ取られました。地位も、魔法も、名前も、姿も。魂だけをマジックアイテムに閉じ込められて。そして、魔物が”絶対者”様に封じられた時に弟子達はその番人を命じられたのです」
「…え?」

 彼女の言葉に真鈴は掠れた声で言った。

「あんた…自分は作られたマジックアイテムだって」
「はい、この仮面は”絶対者”様が作られました。封印の番人という贖罪から逃げぬように設計された魂の牢獄。マリンという名前もこの仮面の名前ではなく、破壊されたヨリシロの方につけられたコードネームのようなものなんです」
「じゃぁ、…あんたの本当の名前ってなんなの?」
「ありません。この仮面に封じ込まれた時に消されました」
「消された?」
「はい、だから私には何もありません。名前すら。ただ、この仮面の内に在るだけの存在」

 だから

「私は憎みました」

 魔物を

「大切な人を失いました」

 師を

「積み重ねていたものを無くしました」

 研究、研鑽の日々より得たもの

「自分自身すらどこにもない」

 名前も姿も、今はもうない

「だから、憎みます」

 魔物を

「使命だからじゃない」

 そんなものが無くても

「誰かの為でもない」

 そう、これは

「私怨なんです」

 どれだけの時間が過ぎたのか。
 沈黙だけの赤い時。
 彼女に触れた手は、離れずに彼女を抱え込む。

「いいじゃない、私怨で」
「真鈴…さん?」
「他人なんてどうなろうと知った事じゃない。でも、あたしにとっては他人でもあたしの大切な人達にはかえがえのない人達かも知れない。その大切な人達が、かけがえのない人の事で辛い想い、悲しい想いをするのなら」

 それはまぎれもなく私事

「それなら戦えるから。だから」

 力を貸して

「あたしだけじゃ戦えないから」

 あたしが力を貸すのではなく
 あたしに力を貸して

「あんたも、あたしも自分の為。だったら」

 協力しあえるはず

「全てを失った訳じゃないんでしょ?」

 赤い時。赤い世界。
 その瞬間に初めて二人の歯車が噛み合った。





「どれだけの事が出来る?」
「魔法による攻撃力は半減したと思って下さい」
「攻撃だけ?」
「移動や探知に関しても攻撃魔法と似たようなもの。防御に関しては大規模なものを除けば7〜8割方機能します。ただ…」
「ただ?」
「肉体制御の魔法は現時点では復旧不可能です」
「つまり?」
「私がヨリシロ、つはりは真鈴さんの身体をコントロールする事が出来ないという事です」
「ん。まぁ、そっちはなんとかする」
「お願いしますね」
「そんじゃ、ま。ぼちぼち始めますか」
「そうですね」
「幸い、向こうから来てくれたしね」



 広き世界に散りしモノ
 幻視の箱に収まれ
 道しるべは一陣の風



「バキューム・ホール・オープンッ!!」






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