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鉄仮面魔法少女まりん−21page






 襲い来る8本の脚。飛び交う糸と病の吐息。
 それを見えざる盾で、光の矢で、ある時は直接の打撃で応戦する。

「けぇぇぇぇぇぇ」

 殴りかかってきたまりんの腕を魔物が掴み取った。
 瞬間にまりんの背後より生まれた光の矢が尾を引いて彼女ごと魔物に炸裂する。

「マジック・アローッ!!」
「舐めるなぁぁぁ」

 光の矢の衝撃に動じず、まりんを掴んだ手を振り下ろす。その瞬間に後頭部に衝撃を受けて視界がぶれた。思わず掴んだ手を離すっ。

「がっ!」
「ギニャッ!!」

 後頭部を蹴り飛ばされて悶絶する白疫鬼と、地面に叩きつけられて身悶えするまりん。
 我に返ったのはどっちが先だったか。

「おのれぇっ!」
「ウィンド・ハンマーッ!」

 放たれた糸を、風の槌が撃墜する。
 ならばと白疫鬼の脚が伸びて来る。
 1本、2本と絶え間なく来るそれを今度は避けもしなかった。
 拳を固めて、次々と撃墜していくまりん。

「なにぃっ!?」
「タイミングが単調だからねっ。いい加減覚えちゃったよっ」

 脚の間隙を縫うように駆け上がってまりんが魔物へと迫る。
 魔法が来ないと判断した白疫鬼は両腕をクロスしてとっさに顔を庇う。

「がっ」

 がら空きになったボディーに拳が突き刺さる。

「もういっちょっ!」
「ぎゃっ!」

 スイッチして反対の拳が突き刺さる。
 たまらず両手を解いて、白疫鬼が掴みかかる。

「なめるなっ!」
「はいっ、我慢が足りないよ」

 カウンター気味に白疫鬼の頬に拳がめり込む。

「かっ、は…」

 捻れるように、頭が振られながら緑の瞳がまりんを捕らえる。
 びくんっっと震えて彼女の体が硬直したっ。

『動かないっ!!』
『邪眼っ。一種の暗示ですっ!! 意思を強く持って下さいっ!』

 魔物の大きく開いた口から白煙が吐き出される。
 それは確かに彼女に直撃した。

「はぁっ、はぁっ。こ、これで少しは…」

 煙がはれた。
 そこには地面に倒れ高熱と悪寒に苦しむまりんがいた…はずだった。

「な、なにぃ!!?」

 だが、実際には誰もいない。
 視界を巡らせて姿を捜す。

「ど、どこだっ!!」

 右、いない。
 左、いない。
 前、いない。
 後ろにもいなかった。

「き、消えたっ!?」

 魔物は驚愕する。
 逃げた?
 それとも魔法で姿を隠したか?

「こっちだよっ!!」

 どれでもなかった。

「う、上かっ」

 組み合わされた両手が白疫鬼の頭に振り下ろされる。
 姿を見失い動揺していた白疫鬼には対処出来ない。
 落下の加速とまりんのパワーを存分に乗せた一撃が頭頂に直撃する。

「う、がっ」

 衝撃に視界がぶれて再び、まりんを見失う。
 咄嗟にその場から離れて距離を取ろうとする。
 奴はどこだっ?
 さっきまでいた場所には見あたらなかった。
 だが、それは捜すまでもなかった。

「降参する? 大人しく封印に帰るなら何もしないけど」

 魔物のすぐ前にいた。
 距離を取ったつもりが、相手も同じだけ距離を詰めたのだ。
 白疫鬼は歯噛みした。
 このまま負けるのか?
 また、封印に延々と閉じこめられるのか?

 否っ!

「ほざけぇっ!!」

 吠えて襲いかかる。

「あっそ」

 右腕を引いて構える。
 マリンによって意識に流し込まれる呪文を口にする度に力が右腕に集っていくのが感じられた。



 集え、全ての法則。
 集え、全ての力。
 集え、全ての意思。
 我は束ね、従え、それを行使する。
 絶対の法を持て、裁きを下す。



 力は形を成して、プロテクターが装着されていない右腕に一回り大きな手甲を創り出す。
 赤と微かな青に彩られたそれは圧倒的なパワーに満ちていた。



 裁きを。
 裁きを。
 裁きを。
 何者であろうと判決を覆す事を許さじ。
 下れ、裁きの鉄槌。



 もはや、白疫鬼の攻撃などにはかまわずに。ただ、右腕を突き出す。
 そして、魔法を解放する。

「フォース・ガントレットッ!!!!!」

 突き刺さる右腕。
 びくんっと一度だけ白疫鬼が体全体を震わせる。
 そして、そのまま二人は1分近く固まっていた。

「…忘れぬぞ、まりん。その名前を」

 最後にそう残して白疫鬼は崩れ落ちた。
 そして、淡い光に包まれていく。

『…これは?』
『極端なまでに消耗した為に、封印の影響に抗しきれなくなったんです。こうなったら送り返すまでもありません』
『勝手に戻るって事?』

 それに答えるより先に魔物の姿がかき消えた。

「これで終わりです」

 マジック・アーマーが光と共に普通の衣服へと戻っていく。
 真鈴が鉄仮面に手をやると、それはなんの抵抗もなく剥がれた。

「終わったねー」
「はい」
「これで香厘は大丈夫かな?」
「原因を排除したのでみんな快方に向かうでしょう。さすがに今この瞬間に治るという風にはいかないでしょうが」
「あー、そっか。残念」
「…残念?」
「治ったら、明日遊ぼうかなと思ったんだけどなぁ」
「そんな暇あるのですか?」
「…どういう事?」
「忘れてませんか?」
「何を?」

 一瞬の間をおいてマリンは絶望的な事実を告げた。

「大量の宿題があったのでは? どうせまだやってないのでしょう?」

 瞬間、真鈴の表情が蒼白になる。

「タコちゃん先生のっ!!! うわっ、完璧に忘れてたっ!! どうしよっ!!」
「どうしようって、がんばってやるしかないのでは」
「マリンッ!! 魔法でちゃっちゃと出来ないの!?」
「絶対無理です。というかそれは本人の為にならないですし」
「そんな偽善者ライクな事を言うのはその口かぁっ!? こうしてやるっ!!」
「そのサインペンッ! どっからだしたんですかっ!! 鬼ッ、悪魔、人でなし、洗濯板っ! 止めてください」
「どさくさまぎれにとんでもない事言うなぁっ!! お前のような薄情な奴はでこに”愛”って書いてやるっ」
「やーめーてー、くださーいっ!!!」

 いまだ残ったままの疑似空間のなか、サドスティックな真鈴の声とマリンの悲鳴がいつまでもこだました。





 そして、静かになった。
 いずれこの疑似空間も消えるだろう。

「これからも」
「ん?」
「協力して頂けますか?」
「んー、そうだなぁ」

 考えるフリをするが答えはすでに決まっている。
 ただ…ちょっと素直に答えるのが癪だっただけ。

「それが誰かの為とかでないなら」
「いいえ、違います」
「だったら。…決まってるよね」
「はい」

 そして二人の声がハモる。

「私達の為」
「だね」


−完−






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