DF−DarkFlame−-第一章-−3page






「ちっ、まずったな。オレ様とした事が」

 鉄骨に背を預け、周囲の安全を確認しつつ彼は呟く。
 ダメージはそこまで深刻ではない。
 幸い敵も深追いして来る気配もない。
 だが、問題が発生した。

「これじゃぁな」

 眉を潜めて摘み上げたのは半壊した携帯電話だ。
 念の為にボタンを数回押してみるが、何の音も発しない。
 鼻を鳴らして男はそれを投げ捨てた。
 それは放物線を描いた後、遥か下に落下した。
 地面との激突で粉々になったろうがその音すらここには届かない。

「普通の電話じゃねぇんだ。そこらのコンビニで借りるって訳にもいかねぇしな」

 呟きながら微かに苦しそうに呻く。
 想定外だった。
 敵無し等とうぬぼれるには、彼は化け物を見すぎていた。
 だが、そういった例外を除けば、彼は強者の部類に属すると自他共に認めていた。
 何よりも、今回の作戦の指揮を執っているあの化け物が、彼の単独行動を許すぐらいだ。
 しかし、現実はこのザマだ。
 相手を狂った思想をもった弱者の集まりと侮っていた。
 いや、正しくは平均すれば弱者なのだろう。
 本当に弱者しかいないのであれば、とうの昔に自分達や他のグループに吸収あるいは淘汰されていただろう。
 弱者を守り、己たちのテリトリーを守る強者の存在。
 それを失念していた。
 相手との力量差はほぼ互角だったろう。このダメージは始めから舐めてかかったツケだ。
「ちくしょう。どうしてやろうか」

 恨みの言葉を漏らしながらも、同時に彼の戦士として冷静な部分が最善の選択肢を模索していた。
 他の仲間と合流するのがもっとも安全なのだが、肝心の連絡手段がない。
 定時連絡が出来ないので何かあった事はいずれ分かるだろうが、捜索隊が来るはずもない。
 ここは敵のテリトリーの上、そもそもが彼の任務が仲間の捜索だったからだ。

「定時集合まで身を潜めるしかないな」

 まだ丸一日以上先だがが、他に手段がない。それまでにダメージをどこまで回復させられるか。
 今の状態じゃ集合地点まで移動するにもリスクがともなう。

「一人でも狩るのが手っ取り早いんだが…、まだ早いか」

 それはどうしても痕跡を残してしまう。ここを離れる前に居場所を知られ包囲されてしまえば最悪だ。
 どうせ、狩るのならば集合地点までの移動直前だ。

「それまでは見つからないよう祈るしかねぇか」

 言ってから自分の台詞の馬鹿馬鹿しさに唇の端がつり上がった。
 祈るって誰に?
 神様か?

 人間じゃあるまいし。








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