DF−DarkFlame−-第一章-−7page
灰色のシートをめくって中に入る。
途端に鉄のにおい、錆びのにおい。
長らく中途半端に放置されたのが原因か床のコンクリートにヒビが入っているところもある。
ここはビルの建設工事現場…だった。
半年前、ここの作業員や責任者と連絡がとれなくなり、不審に思った工事を発注した会社の社員が様子を見に来たところ、知っているものは誰一人いなくなっていた。
そして、一階部分のフロアにたった一人気を失っている少年を発見した。
以来、このビルの時間は止まっている。
何が理由かは分からないが、いまだ行方不明者が分からないような現場を引き受けたがる業者がいないのかも知れない。
「確か、ここだったっけ」
コンクリートの床に仰向けに寝転がり大の字になる。
天井がないので夜空が見える。ただ月が雲に隠れて細部はよくわからない。が、別に上を見たくてこうしている訳ではない。
「何があったんだ?」
言葉にするが、問いかける先は自分だった。
医者に聞かれ、警察に聞かれ、何度も自分に問いかけた。
ここで何かがあった。大量の人が消えた。たった一人を残して。
こうする事は今日が始めてではなかった。
警察からもマスコミからも開放されてからは度々ここに来ては、自分に問いかけた。
答えはいつも一つだった。
「分からない」
自分の声ではなかった。
体を起こしてそちらを見ると、シートをめくって入ってくる智子の姿があった。
「健太郎、まだこんな事してるの。答えなんてない、そう言ってたのは健太郎自身じゃない」
「…そうだね」
自嘲ともとれる笑みを浮かべて健太郎は立ち上がった。
「良く分かったね。僕がここにいるの」
「家に入る前に妙な予感がしたから引き換えしたのよ。そしてら、あんたが出てく姿が見えたから」
ずっと後を付けられていた訳だ。
もっとも、智子は行き先は承知の上だったろう。
こんな事は今日に限った話ではないのだから。
© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved