DF−DarkFlame−-第一章-−11page






 本能が告げた。
 それは死の塊だと。

「健太郎っ!!」

 智子は考えるより早く、健太郎に抱きつくように倒れこんだ。
 背中を焼く熱気と髪のこげるにおいがあの黒い炎がまやかし等ではない事を暗に伝えた。
 視線を熱気が通った先へ向けるも黒い炎は四散し消え去っていく所だった。
 だが、安心したのもつかの間だった。
 本能が視線を黒い炎が放たれた方を向く。
 そこには男が倒れた二人へと両手をかざしていた。

「健太郎、起きてっ。逃げるわよ」

 いいつつ覆いかぶさっている自分の体をよけようとして足首に痛みが走った。
 予想外の痛みに、起き上がろうとした手から力が抜けて健太郎の脇に再び倒れこんだ。

「と、智子?!」

 顔色を変えて抱え起こそうとする健太郎を智子は青い表情でその手を跳ね除けた。

「行って! 早く逃げて助けを呼んで来て!!」
「何言ってるの、早く起きて一緒に──」
「足を挫いたみたい。あたしはいいから早くっ!」
「出来ないよっ、そんなの。智子を置いていくなんて」
「馬鹿言ってるんじゃないっ! 早くしないと二人とも殺されるっ!」
「余計な心配だな。早くても遅くても結果は同じだよ」

 男の言葉に二人をそちらを見た。
 かざした両手の前に浮かぶ漆黒の火炎球。それは男の両腕からもれるように放たれる黒い炎を吸収し、より濃くより大きくなっていく。

「二人同時か、順番か。お前達に残された選択肢はそれだけだ。…まぁ、もっとも時間切れだがな」

 智子は上半身だけ身を起こし、両手で健太郎の腹を突き飛ばした。健太郎の位置が、火炎球と智子の後ろになるように。

「逃げてっ!!!」

 健太郎の視界には智子の泣き顔とその後ろに迫る黒い火炎球が移っている。
 このままでは智子は焼かれこの世から消滅してしまう。
 させるものか。

 モウ、二度ト。

「ば、ばかぁ!!」

 智子の声は背中から。
 健太郎は両手を広げて、智子と火炎球の間に立ち塞がった。
 黒い火炎球は、智子よりも先に健太郎を包み込んだ。

「いやぁぁぁぁっ!!!」






© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved