DF−DarkFlame−-第一章-−14page






 目前にせまる巨大な黒炎。
 しかし、それを前にして健太郎は恐怖を感じていなかった。
 一度目の黒炎をその身に受けたとき、脳裏に様々な光景を見た気がする。
 そして、気付けば男の黒炎を押し返していた。
 記憶には残っていない光景。
 しかし、それは健太郎の脳裏にあるもやのかかった記憶を開くカギのパーツの一部として組み込まれていた。
 そして、いま健太郎の頭にあるのは智子の事。
 あの炎術を受ければ二人とも助からない。
 ならば?

「──食い破れ」

 無意識に呟いた言葉。
 それはまるで奇跡を起こす呪文のように健太郎の体に力を満ちさせた。
 突き出されたままの健太郎の両腕。
 その二の腕から黒い炎が噴出した。
 それは左右の上腕を伝い、手のひらの先で合流し渦を成す。
 智子は一連の光景をただ呆然と見守っていた。

「いけぇっ!!」
「野郎っ!!」

 渦は幾条もの黒い火線と化し、男の放った黒炎へと突き刺さって行く。
 悲鳴が聞こえた。
 黒い火線が、男の放った黒炎へと次々突き刺さる度にそれは聞こえた。
 何度それが繰り返されたか。
 男の黒炎が散り散りになり、そしてその向こう側の光景が露わになる。
 火線の残り火と、蛇のようにそれに絡みつかれた男が。

「へ…本当についてねぇ。いや…オレ様がまずったのか?」

 次の瞬間、男の体に巻きついた黒炎が爆発したように、悲鳴すら焼き尽くすような業火と化した。






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