DF−DarkFlame−-第二章-−4page






「ここに来て予想もしない急展開。ドラマの中だけにしてくれないかしら。まぁ、最近のは先の展開読めるのばっかりだけどさ」

 事務所に戻った八識は椅子に上着をかけて机に腰掛けた。
 事務所内に他に人はいない。所員の予定を書いたボードを確認すると全員出ているようだ。
 こんな時に新規の客が来るようなら留守番でも置くのだが、ここでは必要ない。
 元々、チラシも宣伝もなく、雑居ビルの外に看板すらないのだ。
 よって、新規の客が直接事務所に来るような事はない。
 藤華興信所の顧客のほとんどは、彼女達の正体の承知有無を別にして何かとワケアリの客ばかりで、新しい顧客も8割方が他の顧客からの紹介という形でなりたってる。

「とはいえ、ここで商談することもあるしね。やっぱりあっち側の話をするのは問題感じるのよね。一応ここの所長としては」

 ため息をついて開いてる椅子に座った。
 所長用の席はあるのだが、机が書類で埋まっていて息苦しいのだ。
 ポケットから携帯のありきたりな着信音が鳴る。

「どこから?」

 眉を潜めて携帯を取り出す。
 誰から? でないのは電話帳に登録している場合は、着メロがなるように設定しているからである。
 液晶ディスプレイに表示されているのは見たことない電話番号だ。
 携帯電話番号ですらない。

「まさかと思うけど」

 急いで着信ボタンを押す。

「はい、藤華興信所です」
「あ、えっと、あの」

 歯切れの悪い声。
 だが、さっき分かれたばかりだったのですぐに分かった。

「健太郎君?」
「はい、そうです」

 予感は当たった。

「意外だったわね。電話はしてくれると信じていたけど、もう2〜3日かかるかなと思っていたのに」
「もし、無知である事がリスクであるなら、知るのは少しでも早い方がいいと思って」
「智子ちゃんは? 君が電話をする事を承知済み? それとも隣にいるのかな?」
「智子には言わないつもりです。たぶん…反対されるから」

 たしかに。
 あれは子猫に手を触れようとしたら威嚇する母猫だ。
 なにより、智子と健太郎では決定的に違う事。当事者であるか否かだ。
 健太郎が本能的に感じとれる危機感は、智子には理解できないだろう。

「ところでこれ、もしかして自宅からかけてる?」
「あ、はい。僕、携帯もってないので」
「あらあら。いまどき珍しい」
「あんまり必要性感じないですし」

 まぁ、八識から見ても彼が友達とメール飛ばしあってる姿は想像しずらかった。

「まぁ、それはそれとして。電話をくれたという事は話を聞いてくれるという事ね」
「はい」
「建設現場でも言ったと思うけど、話が少々長くなると思うから直接会って話したたい所だけど、都合の良い日時とかある」
「明日の午後は大丈夫ですか?」
「こっちは問題ないわ。ただ、健太郎君は携帯もってないのよね。どこで待ち合わせるかよね」
「あ、そうですね」
「暑い中で待たせるのも可哀想だし…、例の建設現場付近にある地下街でグルメ通りっていうのがあるの知ってる?」
「智子と何度か行った事があります」
「あらそう、なら調度いいわ。駅に近い方の端に噴水があるでしょ。猫の石像でいっぱいの」
「ああ、猫噴水ですね」
「あ、そう呼ばれてるのね。じゃぁ、その猫噴水で。せっかくのグルメ通りだしお昼をそこで食べながら話しましょうか」

 2,3確認した後、八識は電話を切った。

「ちょっと、とんとん拍子に話が進みすぎてるなぁ」

 こういう場合、なにか当日波乱が待ち受けていそうなものだが。

「まぁ、いいか。斬場に知られなければどうとでもなるでしょ」
「オレがどうかしたか?」

 凍りついた八識をすぐ後ろから斬場が暗い目で見つめていた。






© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved