DF−DarkFlame−-第二章-−5page






「確かにもっと人をよこしなさいとは言ったものの、まさかあんたが来るとはね、宿木」
「こっちは寝耳に水ですがね。せっかく、珍しくトラブルに関わらずに済むと思ってましたから」

 川を繋ぐ橋の欄干に背を預けて、見下した目で女性は、痩せ型の男性を見る。
 宿木と呼ばれた着崩した皺だらけのスーツにネクタイも締めていないとだらしないと思わせる風貌だが、なぜかそれが本人のイメージと重なるのか違和感がない。

「たく、ただでさえグループが弱体化してるこの時に。あんたがテリトリー離れているだけでも大事なのに、さらに増員要請とはね」
「そんな事より、まさか来たのはあんただけ…なんて事ないでしょうね?」

 女性は宿木を見ていない。川に移る夜空を眺めている。だが、レザーのジャケットとズボンに身を包んむ身体から身を切られるような気配が漂い始める。

「まさか、そんな訳ないでしょ。あんた相手に。ちゃんと離れた場所に待機させてますよ。とりあえず間違ってもこんなところで炎気漏らさないようにして下さいね」
「なぜ、わざわざ離れた場所に? そもそも本来の集合地点で合流のはずでしょ」
「なぜって…、せっかく連れてきたのをキズモノにされても困るんでね。出来れば私も待機組みに混ざりたいくらいでしたよ。上からお前が増員を率いろなんて釘刺されてなければね」
「あら、アタクシも信用をなくしたものね」
「信用も何も、テリトリーにいた時から気分一つで何人再起不能にしたんですか。【紅】だったのとあんたでなきゃ、とっくに処分されてますよ」
「ふん、どいつもこいつも使えない奴じゃない。【紅】は力量至上じゃなかったの?」
「将来性っていうものがあるんですがね。まぁ、いいや。それともう一つの質問の答えですが、定時連絡もなく定時集合地点にも姿を現さないメンバーがいるって事を聞きましたが」
「ええ? だからこその増員要請よ。恐らく【燈火】の連中にやられたんだろうけど、まさかそこまで使えない奴だとはね。あんたが連れてきた連中は大丈夫でしょうね?」
「その【燈火】にやられたってのが問題でしてね」
「どういう意味?」
「ご存知かとは思いますが【燈火】はそのポリシーからどことも同盟を組めない異端のグループ。戦闘力も総合的には低いと言われているものの、どこにも吸収も乗っ取られる事もなく、現状のテリトリーを維持している」
「だから? なんなの? まどろっこしいのはキライなのはあなたも良く知っているでしょ?」
「ふぅ、じゃぁ結論から言いましょう。いままで【燈火】に倒された連中がもっていた情報は全て向こうにわたってますよ、恐らく」
「なぜ? まさか裏切ったとでも?」
「違いますよ。どうやら【燈火】の昇華しているのに、敵の情報を読み取る奴がいるらしいんですよ。どこまでかは分かりませんが集合地点や侵入しているメンバー規模、行動予定くらいは把握されていると考えるのが懸命でしょうね」
「初耳だわ、そんなの」
「まぁ、【紅】は極端ですが、戦闘力がDFの格を決めるグループがほとんどですからね。情報力で防衛してるようなグループなんて、発想すら出来ないでしょ。まぁ、だからこそ私に白羽の矢がたったんでしょうけどね」
「ああ、そういう事?」

 女性は納得したように頷いた。
 この宿木という男は昇華こそしているものの、【紅】では末席に近い位置にいる。それは昇華の型が戦闘向きでなく、下手をすれば昇華すらしていないメンバーの方が戦闘力が高いくらいだ。
 ただ、だからこそこの男は自分の昇華の型をほとんど周りに知られないようにしている。
 知っているのは一部の幹部と、力づくで昇華の型を使わせた彼女とその場にいたもう一人。
 下手をすると彼が連れてきた連中も宿木の昇華の型を知らないのかも知れない。

「で、ゼロからになるわけ? とりあえず私達はどうすればいいわけ?」
「ご心配なく、複数のウィークリーマンションを借りましたから、お好きな所にどうぞ。それとこれは私が連れてきた連中のリスト。番号は携帯に登録しといてくださいね」
「手際が良いわね」
「まどろっこしいの、嫌いなんでしょ」

 何枚もの折り紙サイズの紙片を手渡す。

「じゃ、私はこれで」
「合流するんじゃなかったの?」
「まず待たせてる連中を連れてきますよ。無事帰ってこられるか賭けの対象になってましてね。ぜひ大穴にしたくてね」
「あいかわらず、下の連中に舐められてるのね。ちなみにあんた自身は賭けてるの」
「五体満足の大穴に」

 軽く片手を上げて宿木が橋を渡ってすぐの大通りにごった返す人ごみに消えていく。

「ふん、道化め」

 軽蔑の舌打ちをしながらも、宿木が渡したメモに目を通す。
 炎術も性格も姑息だが、抜け目がない男だ。確保したウィークリーマンションとやらも、恐らく燈火に見つかり辛いような場所をセレクトしているのだろう。
 彼女は携帯を取り出し、残っている部下にメモを見ながら移動を指示し始めた。






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