DF−DarkFlame−-第二章-−6page






 健太郎は落ち着かない様子でベンチに座りながら時計を何度も確認する。
 視線を前に向ければ、周囲をいろんなポーズの猫の石像が円状にならべられ、その内側には次々切り替わるライトで様々な色合いで染められる噴水がある。
 通称、猫噴水。
 この近辺の待ち合わせの場所を三つ上げろと言われれば必ず三つのどこかに入るだろう。
 健太郎以外にも、いかにも人待ち中といった人々がベンチや立ったまま、時折時間を確認している。

 智子と来た時は待ち合わせじゃなかったしなぁ。

 彼女とグルメ通りに来ると、彼女は必ず猫の石像を確認していた。
 この猫の石像は不定期に入れ替わりがあるのだ。
 その為、新しい石像を見ると彼女は携帯で写真をとっていた。

 パシャリ

「?」

 音に目を向けると、猫の石像に向けて携帯を向けている少女がいた。
 健太郎と目が合いそうになると、そそくさと離れていった。
 帽子を目深にかぶっていて、どことなく智子に似ている気がしたが、髪の長さが彼女よりも遥かに長かった。

 気にしすぎだよなぁ。

 智子には止められると思って黙って出てきたが、少し気がとがめた。

「はぁい。健太郎君。待った?」

 声で反射的に立ち上がる健太郎。
 見れば、少し先に八識がいた。
 以前のフォーマルスーツとは少し違っていたが、白のブラウスに膝下までの紺のスカート。耳には赤い石のイヤリングがオシャレというものだろうか?

「こ、こんにちは」
「そんな、かしこまらないで。で、智子ちゃんには結局内緒のまま?」
「え? そうですけど?」
「なるほどねぇ、いつぐらいからここにいたの?」
「30分ぐらい前からですけど」
「じゃぁ、お昼はまだね」
「はい、食べながら話をって事でしたし」
「当然、向こうもそうでしょうねぇ」

 向こう?

 八識の視線を追うと、先ほどの猫の石像を撮っていた少女がいた。

「智子ちゃんでしょ。一緒に食事でもどうっ?」
「ええっ?!」

 少女は呼び声にびくっと肩を震わせ、かろうじてこちらを向くのには耐えたようだが、反応してしまった以上仕方ないと思ったのか、肩を落としてこっちに来る。
 間近で見ると確かにそれは智子以外の誰でもなかった。

「え、だって髪!」
「エクステンション、まぁ言えばつけ毛よ」
「よ、よく気付きましたね。僕、全然分からなかったです」
「これでも興信所やってるんだから人を見る目はあるわよ。しかし、あれだけ炎気には敏感に反応するのに、ガールフレンドの変装に気付かないなんて」
「従姉ですっ!!」

 少し真っ赤になりながら、智子が反論する。彼女は外したヘアエクステンションをクルクルとロールに巻き取り、脱いだ帽子の中に放り、かばんに押し込む。
 何気なく中を覗き込んだ八識の表情はやや呆れ気味だった。

「そりゃ、来る途中で健太郎君でも気付かないはずだわ。ここに来るまでに何回変装変えてきたの? ウチでアルバイトしても通用するんじゃないかしら」

 どうやら、かばんの中には変装グッズ満載だったらしい。
 智子はそれに応えず、半眼で腕を組み健太郎を見る。
 健太郎はオタオタしながら言い訳をしようとするが、言葉が何も思いつかない。
 結局、

「ごめんなさい」
「よろしい。以後、黙ってこんなのはやめてよね」

 ふんっ、と組んでいた腕をほぐす。
 はっ、と健太郎は気付いて今度は八識に頭を下げる。

「す、すみません。こんな事になって」
「あら、いいわよ。なんとなく、予感がしてたし」
「予感ですか?」
「それに…、私も謝んなくちゃならないのよね」

 やや、視線を明後日の方をみながら言う八識の様子に怪訝に健太郎と智子は顔を見合わせた。






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