DF−DarkFlame−-第二章-−9page






 アイスティーが運ばれてきてから、八識は健太郎をひたと見つめた。

「さて、ここからは健太郎君自身の話。そして、判断する話になるんだけど」
「僕が…ですか?」
「DFの事についても、今起きている事についても一通り説明したわ。最後のステップは今後の事について」
「今後?」

 八識は一息おくようにアイスティーを口にして、先ほど智子を気圧させた【燈火】の長の表情を軽くにおわせる。

「冷たく聞こえるようだけど、健太郎君は【燈火】のメンバーではないし、またグループに加入って言うのも簡単ではないのよ。別にウチに限った話でもないけど、相応のメリットを提供できるか…なんだけど。正直、知識が欠落し、炎術の基礎中の基礎程度の扱いが出来る程度じゃね?」
「ちょ、ちょっと。健太郎が【燈火】に入る必要性なんてないじゃない」

 横からさえぎるように身を乗り出して智子が言うが、八識はそれを人差し指を振って抑える。

「メリットを求めるって言うのは、当然こちらからもメリットを提示するって事よ。例を上げるなら【燈火】のメンバーはそのテリトリー内において、グループの庇護を求める権利を有し、またグループはメンバーに対し、その要求に応える義務がある。平たく言うならば次に健太郎君が【紅】のメンバーに襲われたとしても、【燈火】としては守る義務はないわ」
「そんなっ。だって元々は亡命者が行方不明になったってトラブルが発端なんでしょ」
「そうね、【燈火】が一連のトラブルの原因の一端である事は否定しない。例の行方不明になったDFがウチのテリトリー内での出来事である以上、トラブルが起きるのもうちのテリトリー内。でもね、先にも言ったけど、どこのグループにも属さないDFは降りかかる火の粉は自分で払うのが暗黙の了解になっている。中途半端な覚醒という事情を知っているからこうして話す場を設けさせてもらっているけど、本来ならDFのテリトリー内を挨拶もなしでうろつこうものなら、【燈火】側のDFから不審者といて襲われても仕方ない所よ」
「無茶よ。健太郎に引っ越せって言うの? ただでさえ、両親が行方不明なのに…」

 健太郎は下を向いたまま震えている。
 またあの夜のような事が起きる?
 あの時はたまたま智子を守れたが、もし相手が斬場のような強いDFだったら?
 八識は幾分雰囲気を和らげて続けた。

「そう。それは知らなかった事とはいえ、悪かったわね。まぁ、健太郎君は学生だしそうそうこの土地から出て行けというのも乱暴だし。で、こちらから提案があるの」
「提案…ですか」
「そう。DF健太郎を【燈火】の監視下におく。まぁ、ようは敵味方はっきりしないけどウチから手を出す程の相手じゃないから、一応監視付きだけど放置するって事。健太郎君は今までどおりの生活を送ってくれていいわ。悪い話じゃないでしょ?」
「え? でも、また【紅】のメンバーに襲われたりしたら──」
「監視付きって言ったでしょ。まぁ、監視に付けるのはあんまり強くないDFだけど、健太郎君の炎術なら始めから最大火力で攻めない限り【燈火】からの援軍が来るまでの時間稼ぎは出来ると私は踏んでいるわ」

 言われて思わず健太郎は自分の両手をひたと見る。
 察したのか、八識は付け加える。

「あなたが思っているより、あなたの炎術は強いわ。ただ、配分、コントロール、それに戦闘経験が圧倒的に不足してるだけよ。相手の炎術をさばき、小規模の炎術で牽制していれば、例え智子ちゃんがいても、十分な時間がかせげるわ」

 自身ありげな八識の様子に一抹の不安を覚える健太郎。

 どうして僕自身が把握できてない力をここまで信用できるんだろう?

「お話はここまでですか?」

 いつの間にかアイスティーを飲み干していた智子が割って入る。

「ええ。後は健太郎君が──」
「条件を飲むしか道はないんでしょ? どうせ。いくわよ、健太郎」
「え、ちょ、智子ちょっと待ってよ」

 さっさと席を立って店を出ていく智子に、健太郎は八識達に軽く頭を下げてから大慌てで追いかけていった。






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