DF−DarkFlame−-第三章-−2page






 健太郎達と別れて、さてタクシーにするか電車にするかと帰路を迷っていた八識は携帯電話の着信に気付いた。
 健太郎達と話している途中に自分の趣味で設定した着メロを聞かれたくなかったのでマナーモードにしていたのだが。
 液晶に斬場の名前が出ていたのでマナーモードを戻すのを後回しに携帯を耳に当てる。

「はい、八識。どうしたの?」
「よぉ」

 電話の声の主は心なしか、声が重い。

「…どうしたの? 急用? いまから事務所に戻るところだけど」
「すまん」
「はぁ?」

 突然謝られ、さすがに八識は面食らう。

「どうしたのよ、いきなり」
「ドジッた」
「…なにを?」
「【紅】のDFとやり合ったんだが取り逃がした」

 八識は思わず息をのむ。

「斬場、あなたが取り逃がしたの?」

 念を押す。
 八識の把握している限り、斬場の戦闘能力、経験共に【燈火】では最強であり、彼に限っていえば、他のグループの少々の腕自慢くらいなら束になっても敵わないはずである。
 戦闘向きのDFが少ない為、弱小グループとみられている【燈火】が今の地位を確保出来ているのも、彼の存在あってこそなのだ。

「どれほどの相手だというの?」
「いや…。確かに手強い奴だったが。恐らくお前が今思っている程には強くない」
「それは確かね?」
「昇華はしていないようだったが、かなり変則的な炎術の使い手だ。あるいは昇華を放棄していたのかもな」
「【紅】クラスのグループでそれを選択しているとすると面倒な奴ね」

 昇華はDFにとって強さのランクを大きく引き上げる。
 基礎的な炎術の力は底上げされ、昇華の象徴といえる炎術の型という新たな武器を得られるからだ。
 しかし、炎術の型とは奇しくも型との呼び名の通り炎術を一種類の方向性のみ収束させたものである為、稀にそれを忌避し、昇華を拒絶するものがいる。
 当然、昇華の型は得られず、また昇華しているDFにくらべて相対的に炎術の威力は低くなるが、その分応用力に富んだDFが多い。

「いや、さっきも言ったが俺がドジっただけだ。油断していた訳じゃないが止めを刺そうとした所で裏をかかれた」
「…まるで素人みたいな言い訳しないでよ」
「だからすまんと言っている。それに相手はかなり手負いだ。器が保てないはずだ」
「替えられると面倒ね」
「分かってる。今から特徴を言うから探してくれ」
「【紅】の侵入者はそいつだけじゃないのよ。あんたが居ると思って、そっちは手薄なのに」
「動かせる奴だけでいい。それともあのガキと同じ様に記憶障害起こす事を期待してこっち側に取り込むつもりか?」
「馬鹿言わないで。…分かった、私が直接行くわ。手負いならそんなに炎術に長けている必要もないわね。後方要員も何人か声をかけておくわ」
「ああ、頼む」

 微かに電話の向こう側で浅い息をしているのにようやく八識は気付いた。

「斬場? もしかして、あなた…」
「大したことはない。ただ、あまり人のいる所には出られそうにないがな」
「ダメージがあるなら、先にそっちをいって頂戴?! 場所はどこ、治療部隊を向かわせるからっ」
「すまんな」
「あなたも【燈火】の運命を背負っているって事を自覚して頂戴。ここに来る前のDFと見れば襲い掛かっていた頃とは違うのよ」
「昔の事だ。持ち出すな」

 斬場の居場所、敵の特徴を聞いて八識は携帯をきった。
 健太郎達のいた方向に目を向けるが二人の姿は見えない。

「器を代える…か。さすがにこれ以上ややこしいのは勘弁してほしいわね」






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