DF−DarkFlame−-第三章-−5page






「夢?」
「うん、八識さんが言っていた名前が出てきていた」

 補習の為の通学途中、健太郎は昨夜見た夢の内容を智子に説明していた。

「確か…牙翼と」
「刃烈。夢の中ではお互いそう言っていた…気がする」

 智子は思案するように首を傾げた。
 数秒経過。

「…で?」
「で? とは何の事?」
「何とかじゃなくて。続きは?」
「…それだけだけど」

 智子は額を押さえて溜息をついた。それはもう大きく。

「起承転結の起承だけ話されてもどうしようもないじゃない」
「い、いや。僕は別にそんなつもりは」
「だいたい、その夢になんの意味があるの。あんた、そいつらに会った事ないはずなんんでしょう?」
「それはまぁ。…八識さんに聞くまで名前も存在も知らなかった訳だし」

 本当はビル建設現場で名前を聞いた時、記憶の琴線に触れるような感覚はあったが、智子を心配させるだけなので黙っている事にした。

「だったら、それは単なる夢に決まってるじゃない」
「…いや、だから始めに僕の見た夢の話と言ってるし」

 大振りなスイングでカバンの角が強襲する。

「おわっ」
「口答えしないの。それで、あんたの夢って単にあの女の話を聞いていたから見たってだけじゃないの?」
「…何もカバンを振り回さなくても。い、いやっ、えっと。それはちょっと違うと思うんです、僕」

 第二撃の構えをとった様子を見て身構えながら健太郎。

「違う?」
「う…ん。実は、さ。その夢に出てきた名前だけど、知っていた気がするんだ。前から」
「前から?」
「そう、八識さんに会うそれ以前に」
「知っているってそんな訳ないじゃない」
「そうじゃなくてさ。智子も言っていたじゃないか」

 意味ありげに見つめると、智子は当惑したがすぐに何の事を言っているのか気付く。

「全部を話している訳ではない?」
「たぶん…。だって…さ、DFというのが不特定多数がその力を持っていて時間をかけてとはいえランダムに目覚めるという類なのだとしたら。その事をまったく考慮に入れていないってのはおかしいんじゃないかな?」
「私もそれは考えたわよ。だから、あの女は信用出来なかった。あの女の言う事を鵜呑みにしていたらずるずると向こうの良いように引っ張られるだけ」
「僕はたぶん…刃烈、牙翼を含めていくつかの情報を知っていた。か、あるいは知る事が出来る手段があった。あの夢は知っていた情報が形になったものか、その逆に情報が夢という形で入ってきたか」
「入ってきたって…。まさか、それもDFの力なんて言わないよね」
「…可能性は否定出来ないと思う。僕の力が単なる発火能力みたいなものでしかないとは思えないし。あのお店でウェイトレスさんが使った炎術みたいに突拍子もない事も出来るみたいだし」
「…やっぱ、さ。関わっちゃだめだよ。健太郎は。どんどん普通の日常から離れていっている気がするよ。考え方がさ」
「うん。でも、いざという時の心構えくらいはいるんじゃないかなと思うんだ。【燈火】と【紅】が争っている以上、僕た─僕が巻き込まれる可能性は皆無じゃないし」

 思わず僕達、そう言いかけて直に訂正する。
 これは僕の問題だと健太郎は自分に言い聞かす。智子は単に巻き込まれたに過ぎない。
 だから、【燈火】がどんなにあやしくても、智子を守る為に利用するのだ。

「それでも、私は反対よ。健太郎、あんたは普通の人間よ。誰がなんと言おうと。ずっと一緒にいた私が知ってるから」
「智子…」

 それっきり二人は黙り込んでしまった。すでに学校の敷地を囲む塀まで来ていて、後はそれにそって校門まで歩くだけだ。






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