DF−DarkFlame−-第三章-−6page






 二人は昇降口で靴を上履きに履き替える。
 学年が違うので健太郎と智子の靴箱は少し離れていた。

「きゃ?!」

 智子の悲鳴に廊下を覗き込む健太郎。
 そこには恐らく出会いがしらにぶつかったと思われる智子とこの学校の女生徒が尻餅をついていた。

「あれ? 恵?」
「…え?」

 先に立ち上がった智子が顔見知りらしい女生徒に手を差し伸べているが、相手は不思議そうに見上げている。

「どうしたの? 夏休みはバイト三昧って言ってたのに」
「………」

 話しかける智子の顔を相変わらず不思議そうに見ながら、それでも差し出された手をとって立ち上がる。

「恵? どうしたの?」
「…前畑…智子?」

 まるで確認するように、フルネームを口にする。

「そうよ。ちょっと大丈夫? さっき変なところ打った?」

 心配そうに智子は恵の顔を覗き込むが、途端に彼女はニコッと笑った。

「ごめんごめん。朝から熱っぽくて頭がぼうっとしてるの」
「ちょっと、なんでそんな状態で学校来てるの」
「教室に忘れ物があったから取りに来たのよ」
「は? いまごろ?」
「ど忘れしてたのー」

 状況が見えない健太郎はツンツンと智子の背中をつつく。

「…誰? 智子の友達」
「あー、うん。去年同じクラスだったの。あ、恵。そういえば会うの初めてよね。これが従弟の健太郎」

 恵は記憶を辿るように沈黙するがややあってぽんと手を叩いた。

「ああ、あの悲惨な話題の数々の当人かー」
「…智子、いったい僕の事をどんな風に話していたの?」
「え、いやその。普通、そう普通よ」

 疑わしそうな健太郎の視線に、智子はあさっての方向をむいた。
 恐らく、面白おかしく健太郎の過去を暴露していたに違いない。
 しかも、彼女一人に限った事ではないのかも知れない。

「えっと、恵さん?」
「吉田恵よ。下の名前で呼んでくれていいけども」
「じゃぁ恵さん。いったい、智子から僕の事をどういう風に聞かされていた──」
「け、健太郎。あんた補習があるでしょ。ほら行った行った」

 ぐいぐいっと強引に健太郎の背を押して恵と引き離す智子。

「じゃ、またね。恵」
「うん、健太郎君も話の続きは今度ねー」
「話の続きなんてないのっ」

 強引に健太郎を押しやりながら智子は恵と別れた。






© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved