DF−DarkFlame−-第三章-−7page
「ふぅ…」
安堵したように恵はため息をついた。
不幸中の幸いとでも言うのだろうか。
消耗しきった今の状態ではあんな間近な距離でさえ炎気を隠し切ることが出来た。
「前畑健太郎…」
吉田恵の記憶を探れば確かにその名前は記憶にある。
しかし、これはどういう事?
「まさかDFだったなんて」
動揺を隠すのに苦労した。
炎気を抑えている様子はなかったにもかかわらず微弱な炎気だったので、恐らくは大した炎術の持ち主ではなかったのだろうが、それでも今の恵には無視できないリスクだった。
「でも、弱いというよりは不安定…まるで──」
今の私のように。
もしかしてそうなのか?
前畑健太郎もまた自分と同じ状況なのか?
「もしそうならどっちのグループ? 判断を誤ると面倒な事になるけど」
敵か、それとも味方なのか。
いや。いやいやいや。
そうではない。今考えるべきは敵か否かではない。
自分が生き残る為の障害かどうか、だ。
「っ?!」
一瞬、意識がブラックアウトした。
辛うじて転倒は免れたものの壁によりかかる。
「さすが斬場と言ったところか。あの程度の補給では追いつかないか」
器を替えて、記憶に基づき吉田家に帰ると、丁度一家がそろっていた。
父、母、姉、弟。残留炎気を気にして可能な限り短時間で済ませたので、彼らは自らの身に何が起こったのか分からなかったろう。
だが、それでもなお受けたダメージが己が存在を狂わせ崩壊していく。
もはや、自然回復など期待するべきではない。
騒ぎになるのを恐れて狩りは避けていたが、このままでは【燈火】に発見されるのも時間の問題だ。
残された手立ては限られている。
積極的に狩りに出るにしてもかなりのハイペースで狩らないといまの消耗に追いつかないだろう。
そんな事をすれば【燈火】に察知されるのは確実だ。
今の状態でまともに戦えるのかどうか。
そして、もう一つの手立ても思い当たるのだが、それはDFにおいては禁忌。彼女の知る限りそれを行っていたDFは一人。だが、そのDFこそが彼女の崇拝に近い忠誠の対象だった。例え全てのDFから侮蔑の対象になろうとも、その行為には甘美に惹かれるものがある。
「健太郎君か…、運が良かったのかも」
彼にとっては不運だろうけど。
苦しげな表情のまま、歪んだ笑みを浮かべるその表情は、かつて智子のしっている彼女のそれでは決してなかった。
© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved