DF−DarkFlame−-第三章-−10page






 面倒の種を作ってしまった。
 廊下を歩きながら恵は内心溜息をついた。
 《燈火》のテリトリーから退くにしろ残るにしろ、安全な場所の確保は重要だというのに。
 自らそれを崩してしまった。
 焦りすぎたか?
 だが、今更言っても仕方がない。
 窓ガラス越しに外を見ると校門へと向かう男女一組の人影があった。
 健太郎と智子だ。

「彼女じゃなければ、一緒に狩ったんだけどね」

 智子の存在を感じた瞬間、炎術を回収していた。
 それはDFとしての恵にとってデメリットであった行為。
 下手をすれば無防備のところを健太郎の炎術にさらされる危険すらあった。

「器に引きずられるとはね。あるとは聞いていたけど」

 言って、自分の言葉をもう一度頭で繰り返す。

「そうか、そういう事ね。炎気が弱かったわりに炎術が強いのも納得できる」

 恐らく、あの健太郎という少年は元々【燈火】の普通のDFだったのだろう。
 だが、何らかの事情で正常に器を替える事が出来なかったのだ。
 結果、炎気のコントロールはもとより記憶すら異常を起こしているのだろう。
 そして、器に引きずられた結果、黒い炎を操れる人間前畑健太郎として生活しているのだろう。

「中途半端な覚醒云々は、恐らく現状の彼を落ち着かせる為のウソね」

 ならば、ダメで元々の脅しだったが、通用している可能性は高いのではないか?
 特にあの智子と親密な様子を見ると、彼女まで危険にさらす可能性まで考えるのではないか?

「だからと言って、ここに隠れ続けるのは賢明じゃないわね」

 願うのは彼が今日中に仲間とコンタクトを取らない事のみ。
 今の状態で包囲されては、強弱関係なく数で詰むだろう。

「なんだ、吉田じゃないか。どうした? お前は補習組じゃないだろ?」
「あー、先生。こんにちはー」

 通りがかった教師にぺこりと頭を下げる。
 教師と言っても顔を見た時点では”恐らく”だった。
 しかしすぐに器が持っていた記憶から必要な情報を拾い上げる。

「いえ、ちょっとどうしても勉強で分からない事があって」
「おいおい。今は夏休み中だぞ。勉強しないのも問題だが、何もわざわざ休みに学校に来てまでする事はないだろう」

 記憶の検索はスムーズだ。
 器が安定していない事を考えればそれは御の字と考えていいだろう。
 おかげで無駄に怪しまれずに済む。

「ちょうど、いいですー。先生、ちょっと時間ありますかー?」
「なんだ、てことは古文関係か?」
「ええ、まぁ」
「まぁいいか。指導室が確か空いてたな。ちょっと待ってろ、荷物を置いて来るから」
「はいー」

 職員室に早足で向かう教師に手を振りながら、彼女はクスッと笑った。

「最悪の事態の為にも。補給はしておかなきゃ、ね」






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