DF−DarkFlame−-第四章-−2page






「恵の事?」

 学校へ道、智子は怪訝な顔で聞き返した。
 健太郎は黙って頷いた。

「うーん、引っ越しとかそんな話は聞いた事ないなぁ。生まれも育ちもずっと一緒のはずだけど? なんで?」
「い、いや。話の内容からなんとなく」
「は? そもそもあんた。昨日、あの子と何話していたのよ。あの子はどっちかって言うと自分から話しかけようなんてタイプじゃないわよ、一見気さくそうに見えるけど」
「似てるからじゃないかな?」
「誰が?」
「恵さんが」
「誰と?」
「僕と」
「どういった所が?」
「…おとなしい所…かな?」
「…似てるって言えば似てるけど。あの子の場合はおしとやかって感じだけど、あんたはただの小心者なだけでしょ?」
「ひどいよ、それは」

 本当は似ているのではなく、同じなのだ。
 DFであるという部分が。
 吉田恵はDFだ。
 だが、つい最近までDFの事を知らなかった智子が、恵がDFである事を知っているはずはない。
 だったら、恵はいつ目覚めたのか?

 いや、目覚めたとかではなく、いつDFになったなのか?

 なによりも気になるのは恵が《燈火》のDFではないと言う事だ。恐らくは《紅》のDFなのだろうが、そう仮定すると一つ大きな疑問が残る。
 恵と智子は中学の時は同級生だったという。
 この街は《燈火》のテリトリー。なのになぜ他のグループ、それも抗争中のグループのDFが何年もの長期間をこの街で過ごす事が出来たのか。
 気がかりは他にもある。
 恵との戦闘になりかけた時もそうだったが、炎術を使って戦おうとする時によぎる感情と感覚はなんなのか? その感覚に従えばうまく戦えた。斬場の時もその前も。
 だが、そもそもうまく戦える方がおかしいのだ。

 八識の話では前畑健太郎はDFに目覚めたばかりのはずなのだから。

 何が正しくて、何が間違っているんだ?

「智子?」
「なによ? さっきから黙っちゃって」
「僕は…僕だよね?」
「…寝てんのか、あんた」

 フルスイングのカバンの角が直撃した。
 …かなり、…痛い。
 しばらく声が出ない。

「智子…お願いだから角だけはやめて」
「それがあんたでしょ?」
「?」
「道端にしゃがんで頭を押さえてるみっともない姿、今のあんたが前畑健太郎でなくてなんだってのよ」
「だからって何も殴らなくても」
「どーせまた自分がDFだかなんだかだからって悩んでたんでしょ? そんな顔してる。言っとくけどね、あんたがどんなに大層な力を持ってもあんたが前畑健太郎である事に変わりはないの。…私があんたの従姉であるっていう事実もね」

 ぷいっと顔を背けるとスタスタと先を行く。
 どうやら照れているらしい。
 健太郎は少し笑って、それから早足で智子を追いかけた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。おいてかないでよっ」






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