DF−DarkFlame−-第四章-−3page






「おはよー、健太郎君」
「…おはよう、恵。私に挨拶は?」
「あ、そうだね。忘れてた。おはよー。と、も、こ」

 校門で待ち構えていたように恵がいた。
 健太郎は何を言えばいいのか強張ったままだ。
 そんな健太郎に恵は急に抱きついて両手は首にまわした。
 ぎょ、と立ち尽くす智子にかまわず恵はこれ見よがしに言った。

「昨日は、楽しかったねー」

 だが、その後すぐに刃のような囁き声が耳を刺さる。

「【燈火】に報告してないでしょうね」
「…してないよ」
「だったら、あなたについて来ているDFは何者よ」
「昨日言っただろう、僕は監視されてるって」
「ふうん…」

 恵は健太郎の監視という言葉は嘘ではないだろうと判断した。
 少し離れた位置から感じる炎気は健太郎のみを探っている。
 もし、【燈火】に恵の正体がばれているなら、恵の方を探っているはずだ。いや、それ以前にすでに包囲網が形成されて逃げ場などないはず。

「ちょ、ちょっと。何してんの二人ともっ」
「何ってちょっとしたのスキンシップー」
「いいから離れなさいって。もう」

 智子が二人の間に割って入って引き離す。

「何か変よ、恵。あんたそんなキャラじゃなかったでしょ」
「んー。健太郎君の事が気にいっちゃったからかなー」
「なっ?!」
「あははー、智子怖い顔してるー」
「う、うるさいっ。こんなんでいいなら熨斗つけてくれてやるわよ」
「あれ? いいのー? 告白までされたんでしょ?」
「あー、もう。そもそもなんで今日も学校にいるのよ、恵。バイトは?」
「んー。実は臨時休業中なの。事故が起きてね。だから、宿題一気に片付けようと思ったんだけど、分かんないところがあってー。ついでだから色々先生に聞こうと思ってー」
「事故ね。それは災難だったわね。弟君のプレゼント奮発して驚かすって言ってたじゃない」
「弟ねー」

 恵の弟は交通事故で下半身不随となり、自由に動けない。その分、家族は過保護気味だ。
 もっとも、今となっては過去の話だが。

「バイト先の店長さんが申し訳ない事になったってお給金に色つけてくれたのー。予定よりは少ないけど、まぁいっかなーって思って」
「そっか、まぁ恵が納得してるならいいけど」
「じゃぁ、いくね」
「なっ!?」

 さりげなく、健太郎の頬にキスをして校門の通用口から入っていく恵。
 そして残されたのは呆然としている健太郎と智子。
 唐突にくるりと回った智子。
 それは極めて危険な弧だったが、健太郎の理解が一瞬遅れた。

「このスケベッ」

 見事に全体重をうまく乗せたやや上向きのカバンスイングが健太郎の側頭部にヒットした。






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