DF−DarkFlame−-第四章-−7page






 八識の携帯電話に発信元不明の着信が入った。

「いったい、だれ?」

 眉を潜めながら着信ボタンを押す。

「…八識さん、僕です」
「健太郎君? いったいどこから」
「学校の公衆電話からかけてます」
「なるほど、どうりで番号でないはずだわ。でも、不便だから携帯ぐらい持ちなさい。なんだったらプレゼントしてあげるわよ」
「そんな事より」

 八識はようやく健太郎の様子がおかしい事に気付いた。

「なに? どうしたの?」
「学校の周囲を【燈火】の人達が囲んでますよね」
「あー、ごめんなさい。あなたに伝える方法がなかったから。今日、学校内で炎気を感じたでしょう?」
「ええ、そして誰か殺されたみたいですね、理由は分かりませんが」

 彼女は息を飲んだ。
 そこまで事実を把握してるのに、たんたんと感情を込めずに喋る健太郎に違和感を感じずにはいられない。

「健太郎君。あなた、もしかしてそのDFに接触した?」

 しかし、健太郎はそれには返答しなかった。

「退いて下さい」
「…え?」
「学校を包囲している人達。いえ、僕の監視を含めて。【燈火】の人達を遠ざけて下さい」
「ちょ、健太郎君。自分が何を言ってるのか分かってる。いい? あなたの学校にいるDFは極めて危険──」
「もし、退いて下さらなければ。力づくで対処します」

 イマ、ナンテイッタ?

「僕の監視というのも結構です。【燈火】の庇護ももう求めません。だから、退いて下さい。僕が誰かを手にかける前に」
「…理由を言いなさい」
「言えません。そして、言っても聞いてはもらえないと思います」

 あのオドオドとしていた少年と本当に同一人物なのか?
 そう思わせるほどの滑らかな声音。
 そして、彼が本気である事を八識は感じていた。

「それはもう【燈火】を敵に回す。そうとってもいいのね?」
「敵に回しても何も変わらない。でも、時間はまってくれない」

 健太郎の言う意味が理解出来なかった。
 ただ、もう彼が後戻りする気がない事は確かだった。
 正気なのか、狂気なのか。

「…分かった。でもすぐには無理。理由もなしに撤退なんて本来ありえないんだから。18時。それまでには退却させるわ」
「はい、それで十分です」

 …それで十分。つまり何かが起きるのはそれ以降って事ね。

「では、いままでありがとうございました」
「あ、ちょっと」

 電話は切れてしまった。
 公衆電話ではこちらからかけるすべはない。

「まったく、何がどうなっているの?」

 呟きながら手先は忙しく、携帯を嬲る。

「斬場っ、緊急事態発生よ。篝火を呼んで!」






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