DF−DarkFlame−-第四章-−20page
「…けんたろー?」
「寝てなよ。おばさんには学校で気分が悪くなったから僕の家でずっと寝てるって言ってあるから」
「うん…」
目の焦点があっていないのは、まだ目が覚めきっていないからだろう。
体を起こそうとした智子を手で制すると彼女はすぐにまたすぐに静かな寝息を立てた。
健太郎はそれを確認してほっと一息つくと捲れた掛け布団を戻す。
客間には健太郎と布団に横たわる智子の二人きり。
学校での一件の後、自宅までは八識達に車で送ってもらった。単に智子を運ぶだけなら健太郎だけでもどうにかなったがそうはいかない事情もあった。
手を伸ばして智子の額にかかる髪をのける。
薄く汗の滲むその額に一切の傷の痕跡がなかった。
【燈火】に属するDFに傷を癒す炎を持つ者がいると聞いたので、健太郎が八識に頼んだのだ。元々【燈火】で斬場のような純戦闘向きな昇華の炎を持つものは少数らしく、その反面に特異な具現や付加の形を持つものが多いとか。
「元々はぐれものの集まりらしいからね」
DFとしては特異な感情を持つが故にそれぞれのサイドから追われた者達が集ったのが【燈火】。
そして、いまなら分る。
全てではないにしろ、牙翼の記憶を受け継いでいるから。
牙翼がなぜ【燈火】を望んだのか。なぜ【紅】ではだめだったのか。
「智子…」
健太郎はうめくように呟いた。
記憶は取り戻した。だから、知ってしまった。
彼女から前畑健太郎を奪ってしまったのだと。
「僕は君にどう償ったら良い?」
すでに取り返しはつかない。
今の健太郎に出来る事は二つしかない。
一つは全てを智子に話す事。
一つは全ての真実を閉ざす事。
確かなのは、そのどちらにも救いは決してない事だ。
ふと、電話が鳴っているのに気付いた。
取るまでもなく相手は分っている。
深いため息をついて、折っていた膝を伸ばした。
八識達も焦れているのだろう。
これからの事を考えて重い気持ちになりながら、電話を取るために健太郎は智子の寝顔を一瞥してから部屋の外へ出た。
© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved