DF−DarkFlame−-第六章-−2page
「無茶苦茶だ」
宿木は今しがた破壊し尽くしたマンションを遠目に見ながらぽつりと呟いた。
警察車両や救急車らしきサイレンの音が間延びして耳に届く。
いったい何人がその現場を目撃したのだろうか。
警察など恐れるはずもないし、姿は器を変えれば済む話だ。
だが、あれだけ派手に炎術を使えばもはや噂になるのを止める術はない。
「…いったい何を考えてるんですかね、あなたは」
宿木の声に当の本人は見向きもしない。
「何を考えていると言われてもね。【燈火】の支部を潰しただけでしょ」
「…こんな真っ昼間から、それも人除けもせずに。これじゃまるで戦争状態だ」
「始めからそうでしょ? 仮にも半年間余所のグループのテリトリーに足を踏み入れておいて平和に事が運ぶとでも? グループ間の戦争だったのよ、初めから。それが理解出来ていなかったというのなら随分とぬるい考えね」
「首尾良く牙翼、刃烈を抑えていれば後は交渉で済んだはずです。いや、もっと早い段階で手を引いていれば、交渉すらいらなかったかも知れない。【紅】と【燈火】では規模が違うのだから、よほどの事がない限りお互いに小競り合いがせいぜいだったろうに。ここまでやられては向こうも腹を括るしかない。まさに殺るか殺られるかの全面戦争だ」
「いいじゃない、戦争くらい。はなからその覚悟くらいあったのでしょう? 【紅】に属していたのなら」
「…【紅】のメンバーだったらの話ですがね」
事実はよりによって情報を引き出すつもりで捕獲した【燈火】のDFから得た。
真実を知った今ではそれが悪夢のような現実を知り得る唯一の手段だったのだと分かってはいても、なぜ知ってしまったのかと後悔が絶えない。
「そう、私達はとっくに【紅】ではない。だから【紅】の事情も知った事ではないわ」
「あんたはいいでしょう。だが私は、いや私達は帰る場所を失ったんですけどね」
「好きにすればいいじゃない。勿論、事が済んだらの話だけどね。その気があるのなら引き取ってあげてもいいわよ、私のグループにね」
「なに?」
宿木はぎょっと目を見開いた。何を言っているのか理解出来なかった。いや、理解したくもなかった。
「樹連、あんた、まさか始めから…」
「あいにく打診が来たのはここに来てからよ。私をおさえれば【紅】の戦力低下と自分達の戦力増強になると考えたんでしょうね。それは正しいわ。個々のメンバーの強さは並み以上とはいえ突出した能力の持ち主がいない以上、戦い方次第でいくらでも勝ち目はある。それは遥かに規模で劣るはずの【燈火】が【紅】に抗しえた事で証明した」
「始めっから【紅】を切るつもりだったんですね」
「あら、切ったのは【紅】の方よ」
「そう仕向けたんでしょう。なんて事だ」
宿木は顔を片手で覆った。
この狂気の塊とも言えるDFの下についた時から破滅の予感が漂っていたが、それがよもや現実となって降りかかる事になろうとは。
今となっては、のこのこ【紅】に戻っても粛正されるだけ。
かといってこの状況を生んだ張本人の口利きで別のグループへ等とは御免だ。
第一、このDFの下に組み入れられるなど絶対に耐えられない。
「無茶苦茶だ」
宿木は繰り返しそう言って我が身を嘆いた。
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