DF−DarkFlame−-第六章-−3page






「追放…ですか」
「ええ。私も半信半疑だったのだけれども、こんな騒ぎを起こした以上は嘘ではないのでしょうね。いくら好戦的なグループと言ってもここまで人間の目を気にしないやり方をする程愚かではないでしょうから」

 電話の向こうで頭を抱える八識の姿が見えるようだった。

「建前上は樹連の暴走だという事だけど、実際はこちらに手を出している余裕はなくなったのでしょうね」
「その【紅】に対して挑もうとしているグループは本当に実在するんですか?」
「ええ。こちらにも未確認情報レベルでしかないけど、確かにそういった情報は入っているの。それも複数」
「3巨頭のいないスキを狙った?」
「あるいは樹連あたりが手引きしたか」
「まさか…」
「こうまで無茶苦茶されると、ね。そう考えたくもなるわ」

 和解が成ったとしてもこれでは状況は改善されない。
 いや、むしろ悪化したと言ってもいい。
 DF同士が共有するはずの最低限の暗黙のルールすら通用するのかどうか。

「どうするつもりなんですか?」
「…どうするも何もないわよ。ここまでされて放っておく訳にもいかないわ。外の目もあるしね」

 その通りだ。
 己すら守り通せないグループなど、他のグループに吸収されるしかない。しかし、【燈火】のメンバーは他のグループからはみ出したDFの集まり。ここがなくなればもう行く場所はどこにもない。
 この場合、戦い抜くという選択肢しか残されていない。
 たとえ、その先に得るものなどないと分っていてもだ。

「敵は樹連と彼女の手下数名。数はそれほどいないし樹連以外は大した力の持ち主はいないはずだわ」
「樹連以外にも昇華しているDFがいますよ」
「ええ、あなたとやりあったという張り付く炎術の使い手ね。確かに樹連と共に彼の姿も報告されているわ。もっともこちらの方は行動を共にしているだけという風で積極的な行動は見られないようだけど」
「…それはそうでしょう。樹連はともかく他は彼女の狂気の巻き添えを食らっただけでしょうから」
「ある意味彼等も犠牲者ね。同情してあげる程の余裕はないけれど」

 追いつめられたのは樹連なのか、【燈火】なのか。八識の声を聞いていると疑問に思えてくる。

「僕はどうすればいいんですか?」
「…そうね。実際のところ、難しいのよね」
「難しい?」
「あなたははっきり言ってこっちの切り札なのよ、健太郎君。牙翼の名声があれば【燈火】そのものが壊滅的な打撃を受けたとしても、交渉次第で他のサイドの侵攻を留める事が出来る。あなたさえ無事なら、ね」
「…でも、樹連は強いです」
「ええ、分っているわ。あなたの力は喉から手が出るほど欲しい。それに彼女が狙っているのはまずあなたでしょう」
「恐らく…」
「誘い出すには格好の囮。だけど、それは牙翼、いえ、前畑健太郎という強力なDFを失いかねない危険な賭けよ」
「…僕は死にませんよ」

 閉切られたドアの向こう側にいる彼女を想いながらそう言った。

「大切な人間がいますから」
「…ええ。だけど、相手は強力なのよ」
「それでも――」
「だけど、スキもある」

 遮られて言った八識の言葉に一瞬次に何を言うべきか迷った。

「実はね。ちょっと前にも樹連に襲われたところがあるのよ。そこはね、私達に関する施設じゃないわ」
「【燈火】に関係のない…施設?」

 一瞬、脳裏に樹連とやりあった夜の光景が浮かんだ。

「まさか、学校?」
「鋭いわね、その通りよ。生徒に関する資料を漁っていたようね、職員室にいた教師は皆殺されていたわ」
「そんな…」
「結局は目的のものは手に入らなかったようね。もしも、健太郎君の住所が分ったのなら私達の支部を潰すなんて必要ないはずだもの」

 確かに健太郎の住処を突き止めるには手っ取り早い。しかし、あまりにも短絡過ぎる。

「彼女なりに自分の強さを計算に含めているつもりなのでしょうね。だけどどう見ても精神のバランスを欠いているとしか思えないわ」

 八識の言う通りだろう。
 健太郎は知っている。
 そうなりかねない位に彼女は刃烈に傾倒していた。
 盲信と言ってもいい。

「元々、地の利と情報力では私達に利がある。それに加えて私達は別に彼女に勝つ必要はないわ。ただ、私達のテリトリーから彼女を撤退させればいいの」
「そうですね」

 同意しつつも、それがどれだけ難しいかは分っていた。
 恐らく八識も同様だろう。

「最悪、あなたの力を借りる事になるのかも知れない。だけど、今はまかせておいて頂戴。それよりも学校には近づかないようにね、そこに網を張っている可能性があるから」
「補習はなくなりましたから、始業式までは登校する事はないですよ。もっとも、新学期が始まっても不登校で通す訳にはいきませんけど」
「それまでにはケリはつけるわよ。良くも悪くも、ね」
「…そうですね」
「じゃぁ、こっちは忙しくなるからこれで」
「はい」
「ああ、それから」
「え? なんですか?」
「ふふっ、智子ちゃんに悪かったと伝えておいて頂戴」
「ええ、分りました」
「それじゃぁね」






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