DF−DarkFlame−-第六章-−4page






 携帯の通話を切ると、どっと疲れが押し寄せてきて八識は思わずため息を漏らした。

「随分と情けない顔をしているな」
「そう? 気のせいじゃなくて?」

 かったるそうに髪をかきあげながら、目も向けずに応じる。
 多分に強がりだが、今はそれが必要な時だ。
 パソコンも資料の束も、藤華興信所にあったものがここにはない。家具すらもないただの立方体の空間。
 本来なら【紅】からの亡命者、すなわち牙翼用に用意したマンションの一室だ。
 まさか、それを自分達が使うハメになるとは思ってもみなかった。

「こうなると分っていたら、せめて家具付の部屋にしておくんだったわ」
「次回の参考にしておくんだな」
「そうするわ」

 そうして斬場に目を向ける。この部屋には他に誰もいない。
 さっきまでいた他のメンバー達はすでに指示通りに配置についている。

「随分と犠牲者を出してしまったわね」
「ああ…。だがそれは皆覚悟の上のはずだ」
「ええ、そうね。でも、これ以上は…ないわ」
「こっちから討って出る、か?」
「ええ、相手の位置はほぼ捉えたわ。いくら炎気を抑えたところで、あれだけ派手に炎術を使えば隠し切れるものではない。隠す気もなさそうだけど。もう、逃がさない」
「敵の戦力は?」
「樹連と昇華しているDFが他に一名。後は雑魚と判断してもいいわね」
「本当に昇華している奴はそれだけなんだろうな」
「…今現在の状況でそんな人材が樹連の元にいるとは考えにくいわね。私みたいに昇華の型が戦闘向きじゃないならその可能性もあるけど。だいたい、【紅】から追放となった時点で反乱が起きるわよ、いくら樹連でも複数もの昇華したDFを力で押さえつけられないもの。なにか気にかかるの?」
「…いや、樹連の目的がな」
「え? 目的も何も牙翼から刃烈の居場所を聞き出すためじゃ」
「なぜ刃烈は見つからない?」
「…それは、恐らく」
「刃烈というDFはもうどこにもいないから、か?」
「…気付いていたの?」
「確証はなかったが、な。健太郎がそう言っていたのか?」
「あなたと同じように状況から推理しただけよ。刃烈と牙翼、この強力なDFがぶつかってなお戦闘の痕跡、すなわち残留の炎気がみつからない訳」
「刃烈が炎気を消した、恐らくは」
「《捕食》の炎術。詳細までは分らないけど、それはあらゆるものを食らう炎術だとは聞いているわ」
「牙翼との戦い直後まで生きていた事は確かだろう。ただ、生き延びるだけの余力がなかったか、あるいはその気がなかったか…。どちらにしても、自らが滅びる寸前に全ての痕跡を食らい尽くした」
「それなら健太郎君が刃烈の事を喋りたがらないのも分るわ。刃烈がそうしたのは牙翼の為でしょうから」
「それでも結果として存在しない刃烈に振り回された訳だ」
「…斬場」
「分ってる。いまさらそれに文句を付ける訳じゃないさ。ただ滑稽だと思っただけだ。敵も味方も区別なく振り回されたのだからな」
「樹連も薄々気付いてたんでしょうね。それが【紅】からの追放を知って暴走した」
「暴走と言うより暴発だな」

 窓の外から見えるいくつもの煙が被害を物語っていた。







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