DF−DarkFlame−-第七章-−3page






「あはははははははっ、どうしたの、宿木。もう囮は残り少ないわよ」

 灼痛と憎しみで狂乱状態で辺り一帯を破壊し続ける樹連。
 もはや、鞭も器も焼かれながら、意に返さないように笑い続ける。

「それっ」

 倉庫の一角を破壊すると、衝撃に吹き飛ばされ、仰向けに倒れた宿木の姿があった。

「あら、見つけちゃったわね」
「そのようですね」

 宿木の顔に恐怖はない。
 始めから勝てるはずもないのだから。
 せめて【燈火】が追いつくのを期待していたのだが、間に合わなかったらしい。

「悪いけど、あんたごときに躓いてる時じゃないの、アタクシ」
「私に躓いたんじゃない。あんたが勝手に転んだだけですよ」
「あんたの戯言にも付き合う気はないわ」

 樹連は鞭を振り上げる。
 宿木は防御すらしない。
 意味がないからだ。
 あくまで宿木の炎術は宿木自体の生存が前提だ。
 防御を容易く打ち破る樹連の鞭、炎術を貼り付けたところで容易く器を破壊しその本体さえ消し去るだろう。

「消し飛べ」

 鞭が振り下ろされた。

 DFにも天国とか地獄とかあるんですかねぇ

 そんな事を考えていた宿木は、鞭が届く寸前に何かに弾かれたのを見て目を見張る。

「助けて頂くのは2度目になりますかね。斬場さん」
「好んで助けた訳じゃないさ。だが、樹連と敵対してたようだからな。手数は多いほうがいい」
「賢明ですね」

 鞭を弾いたのは斬場の炎術の”剣”だった。
 それも右手に普段の両刃の長剣、左手に小太刀風の反りのはいった刀。
 それらを樹連に向けて改めて構える。
 次の瞬間、倉庫の屋根にいた樹連の元まで一気に跳んで切りかかる。
 接近戦を嫌った樹連が距離をとろうとすると、鋭い炎気が高速で接近するのを感じて、身をよじってかわす。
 炎気が来た方向を見れば具現化した弓を手にしたDFがいる。恐らくさっきのは矢だったのだろう。
 そして、体勢が崩れているはずの樹連に対して斬場が切りかかって来ない。
 感覚を広げると真上から炎気が降って来る。

「ちっ」

 横っ飛びに移動するとさっきまで立っていたところに次々と方刃の斧の柄をとりはずしたような刃が、無数に倉庫の天上を貫いていく。
 しかし、それを確認する間もなく、鞭を振るう。
 両手で抱えるように叩きつけられた業火は鞭と衝突すると、四散するのと引き換えに雷光となって樹連を襲う。

「あれが【燈火】の戦闘部隊ですか。誰ですか、弱いなんて言ったの」
「彼らは突出してるだけよ。あなたが宿木ね」
「あなたは?」

 近寄って、手を差し出した女性に問いかける。

「八識。このテリトリーを収める【燈火】の長よ」
「これはこれはご丁寧に」

 八識の手を借りて立ち上がり、宿木は膝の軽く払った。

「隠れてたあなたの仲間から事情は聞いたわ」
「…彼らをどうするつもりですか」
「あなた次第ね。あなたの判断に任すと彼らは言っていたわ」
「そうですか。では、当面いくあてもないので【燈火】でかくまって頂けませんか? 無論ただとはいいません。私の首なんてどうでしょう。追放されたとはいえ元【紅】の昇華したDF。【燈火】の戦力のアピールになるんじゃないですか」

 自分の言っている言葉の重みを分かっていないかのように宿木は軽く言ってのけた。
 だが、八識は首を振る。

「どうせなら、首じゃなくて頭を頂戴」
「頭…ですか?」
「ええ、元【紅】のDF宿木。あなたに【燈火】への加入を求めます。それが条件よ」
「はい?」
「あんた達のおかげでこっちは被害甚大。かといって殺った殺られたの言ってる余裕はウチにはないの。話を聞くとどうやらあんたは知恵が回るみたいね。おまけに樹連あいてに戦ってのけた」
「後一歩で死んでましたよ」
「あんなバケモノ、単体で足止め出来るのはそういない。最後通牒よ、【燈火】に下るか下らないか」
「【燈火】に下ったとして、私の仲間はどうなります? 一時ならともかく【燈火】信条と相容れない連中ですよ」
「状況が落ち着き次第、好き出ていってもらっていいわ。ただし、【燈火】のテリトリー内にいる時はこちらのルールに従ってもらう。監督はあなたにお願いするわ」
「選択の余地がありませんねぇ」

 宿木は八識に向かって膝をついた。

「条件を飲みます。この宿木、【燈火】に下りましょう。好きに使ってやって下さい。ただし」

 視線を上に向けた。

「あれをどうにかしてから、でいいですか?」
「いいですかも何も初仕事よ」
「承知しました」

 宿木、八識が共に戦場となっている倉庫の屋根に跳び乗った。






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